「ジャパンインターナショナルボートショー2025」から小型船舶に特化した舶用技術をレポートする。AIを用いた航行サポートシステムや電動化ソリューション、水素エンジンなどの他、“あの空母”に載っていた、船酔いを引き起こす「揺れ」を抑える減揺装置などが展示された。
2025年3月20~23日、「ジャパンインターナショナルボートショー2025」(以下、ボートショー2025)がパシフィコ横浜および横浜ベイサイドマリーナを含む4会場で開催された。同イベントは、日本国内最大規模のプレジャーボート(小型船舶)関連展示会で、出展社数は199社、展示隻数は165隻、展示製品の総額は約155億円に上る。ちなみに展示製品で最高額となるのはプレジャーボート「Princess F65」で6億円。リアルイベント開催期間の来場者数は4万5382人(主催者発表)と前回の2023年(3万4579人)を大きく上回った。
近年のプレジャーボートの業界課題となっているのが、保有隻数や新規ボート免許取得者数の減少傾向が続いていることだ。その一方で、女性取得者の比率増加やシェアリング利用の定着といったポジティブな動きも見られるという。こうした市場環境の中で、ボートショー2025はプレジャーボート関連製品とサービスの「需要喚起」だけでなくマリン関連レジャーそのものへの「興味喚起」となるきっかけの場としての役割も期待されていた。
小型船舶向けの舶用技術に関しても多数の新製品や試作品が展示されていた。それらの中にはAI(人工知能)による障害物認識、自動航行機能といったCASE(コネクテッド、自動運転、サービス/シェアリング、電動化)技術を小型船舶分野でも本格的に導入した製品や、電動推進機、水素燃料エンジンなど、自動車分野との技術的親和性を生かした試作品など、安全性や環境性能の向上に貢献する製品が登場している。
本記事では、各ブースの展示製品から小型船舶における技術動向を紹介していく。
混雑した水路や視界不良下での航行をサポートする技術として、LOOKOUTからAIを活用した障害物検出と表示、回避(避航)システム「LOOKOUT The AI Camera to Navigate Safely」が展示されていた。
このシステムは、複数のセンサーとカメラ、そしてディープラーニングを活用した画像解析により、船の周囲に存在する小型船舶やブイ、カヌー、漂流物、人などの障害物をリアルタイムで検出して分類できる。従来のレーダーやAIS(船舶自動識別装置)では検出が難しかった非金属物体や低反射物体も識別可能だ。
AR(拡張現実)ナビゲーション機能も搭載されており、検出された障害物や航路情報を既存の航海計器やタブレット端末に3Dビューでオーバーレイ表示することで、直感的な状況認識が可能となる。また、赤外線センサーによるナイトビジョン機能も実装されており、夜間や霧など視界の悪い状況でも安全な航行支援を提供する。
さらに、接岸支援のための「ドックアシスト」機能も備えており、広角カメラによる周辺監視映像と距離ガイド表示によって、狭いマリーナなどでの操船をサポートする。
ハードウェアにはNVIDIA RTXプラットフォームを搭載したエッジAIコンピューティングシステムを採用し、船舶用に耐塩害耐水設計した筐体に組み込んでいる。ソフトウェアでは、10万時間以上の実海域映像を基に学習したディープニューラルネットワークを導入して、物体形状や動き、波のパターンなどを総合的に解析して高精度な認識を実現している。
また、レーダーやAISとの連携によるマルチモーダル認識や、ネットワーク接続によるソフトウェアアップデート、クラウド経由の運航ログ分析などにも対応。自律運航船舶への応用を見据えたプラットフォームとしての展開も進めている。
LOOKOUT CEOのDavid Rose氏は「目視や従来センサーでは見落としがちな対象物まで、AIが正確に認識して表示できるので、船長の判断支援に貢献する」と述べ、AIと画像認識を活用した新しい航行支援の方向性を示した。
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