アウディ、BMW、ダイムラーのドイツ自動車メーカー3社連合が、ノキアの100%子会社で地図情報サービス大手のHEREを買収した。HEREを詳しく取材してきた桃田健史氏がその理由をひも解く。そして今回のHERE買収は、今後数年間で起こるであろう、自動車産業の構造大転換のプロローグにすぎないという。
2015年8月3日(ドイツ時間)、Audi(アウディ)、BMW、そしてDaimler(ダイムラー)はそれぞれ「Nokia(ノキア)の100%子会社で地図情報サービス大手のHEREを、3社が共同で買収した」と発表した。買収による株式の転換は2016年1〜3月期に完了するという。
各社のCEOはコメントを発表し、HEREが進めてきた地図情報サービスが今後、自動車産業にとって必然であり今回の買収は不可避だったと説明した。
だが、どうしてドイツの大手自動車メーカー3社が、共同でHEREを買収する必要があったのか、その理由については全く触れていない。
自動車の一般ユーザーにとっては、ほとんど無名のHERE。また、自動車業界関係者でもテレマティクスや電子関連部門の開発者以外、ほぼその存在は知られていない。にもかかわらず、今回の買収劇は欧米の主要メディアが大きく取り上げている。その理由は何か。
2015年春あたりから、ノキアがHEREを売却する意向があるといううわさがあった。買収に関心を示した企業として、Microsoft、Facebook、Google、中国の検索大手である百度(Baidu)など、ITの巨人たちの名前が囁かれた。と同時に「どうやらドイツの自動車メーカーがコンソーシアムを作って買収するらしい」という情報が、どこからともなく流れるようになった。
また同年5月後半、中国の上海で初開催された「2015 CESアジア」で、アウディの技術幹部が参加した技術説明会の席上、欧州の経済系メディアの記者がHERE買収の真偽について聞いた。それについてアウディ側は「ノーコメント」とあっさり答えた。
その後、欧米、そして日本での各種カンファレンスにHERE関係者が登壇する度、「弊社の買収に関しては私自身、会社側から何も聞かされていないので、答えられない」と予防線を張ってきた。
なぜHEREの買収が、ここまで大きな話題となるのか。
筆者は過去数年間に渡り、HERE関係者と情報交換を行ってきた。また、同社のベルリン本社を含む関係各所を詳しく取材してきた。
そうした経験に基づき、「なぜドイツ自動車メーカー連合がHEREを買収したのか」について、筆者の考えを紹介してみたい。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.