一方、新たな強みとして見えてきたのが「製造現場で商品設計をする」という利点だ。
取材当時はソニー長野ビジネスセンターで、現在は独立運営を果たしているVAIOでは、長野県安曇野市の生産拠点に設計や企画のメンバーも集め、商品構想から設計、製造、販売、サービスまで一気通貫で行える体制を構築している(関連記事:“みんなここにいる”の強さ――長野発「ソニーのVAIO」が尖り続ける理由とは)。従来は設計者が生産できる形を類推して余裕を持たせて設計していたのが、実際の生産者とともに、ギリギリまで追い込んだデザインを実現できるようになったという。
「企画や設計の段階から製造者が入って一緒になって追い込む上流設計が製品の特徴につながっている。ソニーからVAIOになって規模は変わったが目指すところや方法は同じだ」と小寺氏は述べている。
同様に東洋ゴム仙台工場では、2000年にタイヤ製造の新工法である「A.T.O.M.(Advanced Tire Operation Module)工法」を開発。その時には、仙台工場に関連技術者が集まり、新たなタイヤ製造法を確立できたという(関連記事:タイヤ製造工法に「革命」を起こす東洋ゴム仙台工場、会長が語る“逆の発想”)。
また三菱電機ホーム機器も、三菱電機の子会社として独立し、市場調査や製品企画、設計、開発試験、製品企画、設計、開発試験、製造、販売、アフターサービスまで同一拠点で行っている(関連記事:現場の発想を即決実行! 三菱電機ホーム機器が高級白物家電で連勝する秘密)。同工場では「現場の発想をすぐに実行し、生産ラインやプロセスなどをさまざまに変えていく、実行力や柔軟性が強みとなっていた」と小寺氏は述べている。
これらの企業の取り組みから小寺氏は「ここで訴えたいのは、日本の製造現場は非常に優秀でこの才能を使わないともったいないということ。ゼロからの商品企画でなく、既にあるものをより良くするアイデア出しや改良、最適化などについては、製造現場からのアイデアがブレイクスルーになる場合も多い」と訴えている。
最近のモノづくりの現場では、数多くのモノづくりベンチャーが登場してきているが、小寺氏が取材した世界最大の家電見本市「International CES」では「大企業のモノづくりの在り方も大きく変わってきていることを感じた」(小寺氏)という。それは「全部自分たちで持つのはやめた」ということだ。
その1つの例がソニーの「MESHプロジェクト」だ。これは機能を持った電子ブロックでこれらを組み合わせることで1つの製品のように何らかの機能を実現できるというものだ。例えばモーションセンサーブロックとスピーカーを組み合わせ、何らかの動きがあれば音が出るというようなモノや、インターネット経由で天気予報の情報を読み込み、雨の予報が出ていた場合、傘立てのLEDブロックが光るというようなことが、エンジニアとしてのスキルなしに実現できる。「このプロジェクトで特徴的なのが、これを作り出したエンジニアがソニーの中ではなく、外のクラウドファンディングを使って事業化をしようとしたことだ」と小寺氏は語る。自社だけでは足りないところを自由に外に求めたのが特徴だといえる。
全天球カメラ市場を創出したリコーの「RICOH THETA」も同様のアプローチだ。今までになかった360度全天球を撮影できるカメラだが、全く新しい製品だけに使い道がメーカー内でも想定し切れない。そこでリコーでは、SDK(Software Development Kit)やAPI(Application Programming Interface)を公開し、ユーザーからアプリケーションを募ることにした。これにより、大きく市場を成長させることに成功したという(関連記事:老舗が生んだ革新、“全天球カメラ”誕生の舞台裏)。
これら一連のモノづくりの動きを通じ、小寺氏は「最終的に日本の強みは製造者のレベルの高さやユーザーのアイデアの豊富さなど“人の強さ”に行き着くのではないだろうか。これらの人々の強みを使いきれていなかった部分がある。モノづくりは出荷した段階で終わってはいない。むしろそこから次のサイクルが始まる。これらの人々の力を再度見直すことでさらにモノづくりの強さが発揮されるのではないか」と語る。
さらに、来場者に向けては「ここにいる皆さんはモノづくりのプロが多いと思うが、私のような素人の話にも真剣に耳を傾けてくれた。日本人にはそういう常に“好奇心”を持ち、今の環境を良くしていこうという素養があるように思う。こういう日本人の特性を生かしていければ、モノづくりの未来も明るいのではないだろうか」とエールを送った。
「国内市場の縮小」「生産による差別化要素の減少」「国内コストの高止まり」などから、日本の生産拠点は厳しい環境に置かれている。しかし、日本のモノづくり力はいまだに世界で高く評価されている。一方、生産技術のさらなる進歩は、モノづくりのコストの考え方を変えつつある。安い人権費を求めて流転し続けるのか、それとも国内で世界最高のモノづくりを追求するのか。今メイドインジャパンの逆襲が始まる。「メイドインジャパンの逆襲」コーナーでは、ニッポンのモノづくりの最新情報をお伝えしています。併せてご覧ください。
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