“好奇心”が日本のモノづくりを強くするモノづくり最前線レポート(1/2 ページ)

東洋ビジネスエンジニアリングが開催した年次イベント「MCFrameDay 2015」の特別講演企画であるMONOistスペシャルセッション「ユーザー視点で見た、モノづくりニッポン」では、テクニカルライターの小寺信良氏が登壇し、“メイドインジャパン”の強みについて考察を述べた。

» 2015年03月02日 09時00分 公開
[三島一孝,MONOist]

 東洋ビジネスエンジニアリング(以下、B-EN-G)は2015年2月20日、年次イベントである「MCFrameDay 2015」を開催した。今回のメインテーマは「日本の製造業に、ものづくりのためのITを」とし、製造業に向けたさまざまなセッションを開催した。

 その特別講演企画であるMONOistスペシャルセッションとして、テクニカルライターの小寺信良氏が登壇し「ユーザー視点で見た、モノづくりニッポン」をテーマに、日本のモノづくりや“メイドインジャパン”の強みについて考察を述べた。

 小寺氏は、もともとはテレビの編集者としてさまざまな映像制作を手掛けた後、テクニカルライターとして独立。コンシューマAV機器や放送機器などの評価やレビューなどに加え、エネルギー問題など幅広い領域で、執筆・評論活動を行っている。

 その小寺氏がモノづくりの現場を回るようになったのが、MONOistでの連載企画「小寺信良が見たモノづくりの現場」によるものだ。連載発足当時は、円高やグローバル化の問題で海外流出が進んでいたが、その中で「国内生産拠点にどういう付加価値があるのか、もしくは今後も残り続けていくのか」という点を、エンドユーザーの視点を持つ小寺氏に切り取ってもらうことを狙った企画となる。連載では、国内の10工場を取り上げたが、その中で抽出した知見を講演では解説した。


モノづくりの工夫で勝つ

 小寺氏は「まず製造コストや人件費が高い日本で作っていてなぜ勝てるのか、という疑問があった」と述べる。いくつかの工場を回るうちに結果として見えてきた回答の1つが正攻法でもある「モノづくりの工夫で勝つ」ということだ。

超多品種・超変種変量生産

photo テクニカルライターの小寺信良氏

 その事例の1つが、ソニーの放送機器を製造するソニーイーエムシーエス湖西サイトだ(関連記事:ソニーの“プロ機”が日本人にしか作れない理由)。同工場の特徴は、超多品種・超変量生産であるという点だ。

 放送機器などのプロフェッショナル機器は、個々へのカスタマイズなども含め、大きなロット数で生産するわけではない。当然セル生産を行っているわけだが、1つのセルが製造する製品はおよそ100種類にも上る。中には1カ月に1回しか生産しない極小ロット製品もあるという。従業員にとっては毎日、毎時作るものが変わる中、1つ1つの工程を全て覚えておくのは難しい。そこで、これらを支援するシステムを充実させていいることが特徴だ。「E-Assy」と呼ぶ製造支援システムを活用する他、プロジェクターで組み立て作業を行う部分を表示するような独自の支援器具を活用している。

 「利用するドライバーを光らせる仕組みなど、製造支援の仕組みを自分たちで作り、生産効率を高めているところがユニークだ。こうした自律的に生産性を高めていくような取り組みは日本ならではのものだといえる」と小寺氏は述べる。

命に関わるモノ

 また、実際にモノづくりのクオリティとして日本でモノづくりを行うメリットを生かしているのがボッシュ栃木工場だ(関連記事:グローバル企業として生き残るには――ボッシュ栃木工場に見るニッポンクオリティ)。同工場は自動車用のアンチロックブレーキシステム(ABS)や、横滑り防止装置(ESC)などを製造している。

 ボッシュには、基本的に全工場で同じ製造装置、同じ製造方法で生産を行うという方針がある。その中で海外の工場では量産品質を維持できなかった製品が存在したが、日本独自の創意工夫を生かし量産工程の確立に成功した。現在はその量産工程の海外展開に成功し、ボッシュの中で生産の学習拠点としての位置付けも担っているという。小寺氏は「日本の高いモノづくりの品質は価値が高いモノにこそ生きる。かけがえのないものという意味では、ポイントは命に関わるものであることということもいえるかもしれない」と語っている。

徹底したロボティクス

 「人件費が高い」ということが課題であるのであれば、使う人そのものを減らす、というアプローチで成功しているのが、ソーラーフロンティア宮崎第3工場だ。同工場はもともと日立製作所のプラズマディスプレイ工場だったものを従業員ごと買い取ったものだ。

 小寺氏は「太陽電池は中身の技術は変わっても基本的には同じサイズで同じ形のモノを作り続ける。そのためロボティクスによる徹底した自動化が可能だ。この工場ではほとんど人を見なかった」と語る。実際に人手による作業は、基本的には装置のメンテナンスと検査にとどめており、徹底した自動化が実現されている。完全な自動化や機械化が可能であるのであれば「世界中どこで作ったとしてもそれほど変わらない」(小寺氏)としている。

モノづくりだけでない人づくり

 国内最大級のPC生産拠点である島根富士通では、トヨタ生産方式とICTを活用したモノづくりで差別化を実現している(関連記事:富士通のPC工場、勝利の方程式は「トヨタ生産方式+ICT活用」)。同工場はライン生産だが人の能力を生かすために混流生産体制を取っている。また同社が外販する「VPS(Virtual Product Simulator)」という製造作業シミュレーターにより、生産プロセスの効率化を実現しているという。

 小寺氏は「このように戦略的に効率化を追求した工場である一方で、島根富士通の社長は『同じシステムで工場を作っても同じようには作れない』と強調していた。これらの取り組みを進めながらも最も重要なのは人の強さということがいえる」と述べる。

ポイントは日本の雇用形態に

 これらの生産の強みを見た場合「生産現場における人の能力の高さが、日本は非常に高いことが明らかだ」(小寺氏)という。さらにそれらを支えるのが「日本の雇用形態にある」と小寺氏は指摘する。

 「工場は土地代の安さなどから、地方でも不便なところにある場合が多い。ただ、地方は人は少ないが就職口も少ないため、地方に工場ができればその地方の優秀な人材が多く集まることとなる。さらにそれらの人々が、長期雇用制度により高い帰属意識を持ち、技術を受け継いできていることで、技術を高めていくことができている」と小寺氏は分析している。

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