“360度の空間を撮影するカメラ”として新たな市場を切り開くリコーの全天球カメラ「RICOH THETA」。そのアイデアはどこから生まれ、そしてそれを形にするにはどんな苦労があったのだろうか。革新製品の生まれた舞台裏を小寺信良氏が伝える。
今までにない新しい製品のアイデアや発想はどこから生まれてきたのか。またそのアイデアを形にしていくにはどういう苦労があるだろうか。「小寺信良が見た革新製品の舞台裏」では、製品企画や設計・開発の担当者へのインタビューを通じ、革新製品の生まれた舞台裏に迫る。今回はカメラの老舗メーカーであるリコーが生み出した革新製品“360度の空間を撮影するカメラ”「RICOH THETA」(以下、THETA)の舞台裏をリポートする。
写真の世界には、その時代ごとに大きなうねりのようなものがある。パノラマであったり、連写であったり、レトロな写りだったり、3Dだったりといった機能が、それぞれの時代でフォーカスされてきた。もしかすると動画でさえも、そのうねりの1つといえるかもしれない。
これらの変化の中、次のうねりとなりそうなのが、360度全天球を一度に撮影するカメラである。2014年11月にJK Imagingの「Kodak PIXPRO SP360」が発売(正確には全天球ではなく半球)された他、クラウドファンディングで141万ドルを集めたフランスGIROPTICの「360Cam」が2015年のInternational CES(Consumer Electronics Show)でイノベーションアワードを獲得。また、カナダのBublの「Bubl Cam」もクラウドファンディングで34万ドルを集めて2015年春に出荷を開始するなど、全天球カメラが続々と投入されている。
だがその流れを作ったのは、日本の老舗カメラメーカーであるリコーの「THETA」だ。他社がこれからようやく製品を出荷するというタイミングの中、これらに先駆けて2013年11月から実売を開始。早くもその1年後となる2014年11月には第2世代モデルTHETA(m15)をリリースしている。価格も実売で3万円強と、リーズナブルだ。
リコーが老舗カメラメーカーと聞いて、ピンと来ない方もいらっしゃるだろう。リコーはもともと感光紙の製造販売で創業した。だが1938年(昭和13年)に、当時「オリンピックA型」というカメラを製造していたオリンピックカメラ製作所を買収し、そこからカメラ事業に参入した。文句なしの老舗である。
その後1950年代には二眼カメラ「リコーフレックスIII」が大ブームとなり、カメラの大衆化に大きく寄与した。同時期35mmフィルムでは名機「リコレット」「リコー35デラックス」を世に出し、1960年代に入るとハーフカメラ「リコーオートハーフ」で一世を風靡した。デジタル時代にはコンパクトカメラを中心に「RDC-7」のようなユニークなモデルを排出。さらには「GR Digital」シリーズでいち早く高級コンデジ路線を切り開いた。
そんなリコーが、一眼レフでもコンパクトカメラでもないカメラの未来として開発を進めたのが、360度全天球カメラというコンセプトである。今回はTHETAの開発に携わった3人のキーマンに、THETAの誕生から未来までのお話しを伺う。
今回、お話しを伺ったのは、製品企画を担当したリコー コーポレート統括本部新規事業開発センターVR事業室の高田将人氏、技術面を担当したリコー技術研究所フォトニクス研究センター製品開発室の澤口聡氏、同大熊崇文氏である。
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