選出10作品の詳細は後述することにして、先に結果をお伝えしよう。
まず、アイデア賞に選ばれたのは、三木大輔さんが開発した「Kinectを用いた腹腔鏡下手術支援システム2013」だ。2013とある通り、三木さんは前回も同じテーマで出場し、急きょ追加された「奨励賞」を受賞している。傷口が小さく、患者の負担が少ないことで知られる腹腔鏡下手術だが、医師の立場からすると技術と経験を要するという。
このシステムは、マジックハンドのような腹腔鏡下手術に用いられる術具の手元部分にマーカーを付けて、お腹の中に挿入されて目では見えない術具の位置を推定し、可視化するというものだ。これにより、誤って臓器を傷つけてしまうような医療ミスのリスクを回避できる。三木さんによると、実用化に向け、生きた豚を用いた臨床評価や工学的評価を重ねてきたことに加え、米国での学会発表などを実施。この1年で、システムとしての磨きをかけてきたという。三木さんは「前回は奨励賞。今回は1つ進んでアイデア賞をいただけた。次は技術賞を、再来年にはグランプリを目指したい」と冗談を交えながら喜びを語った。
続いて、技術賞に選ばれたのは、上田智章さんによる「非接触バイタル・センシング(呼吸と心拍)」だ。Kinect for Windowsの骨格追跡により、顔と胸部を追尾し、呼吸と心拍を高精度に計測するというもの。服の上からはもちろんのこと、暗闇、タオルケットや布団をかぶった状態でも非接触でセンシング可能だという。
来年(2014年)登場予定の次世代Kinect for Windowsで搭載される心拍計測の先取り的な作品といえるが、これを個人の趣味の範囲で、しかも現行版のKinect for Windowsで実現している点に注目したい。出場者の中で最もKinectの魅力を熱く語っていた上田さんに対し、審査員は「ここまでできるのか! もしかすると世界一使いこなしているのではないか?」と大絶賛していた。
そして、見事グランプリに輝いたのはfour-deeの岩瀬聡一郎さんによる「face4D」だ。こちらの作品は、フェイスラインを測定するシステムで、10作品の中で唯一、Kinect Fusionの機能を活用していた。もともとモバイル系のソフトウェア開発を手掛けていた岩瀬さんは、Kinect for Windowsと出会い、3次元計測で何かビジネスができないかと考え始めたという。
今回発表したface4Dは、「見違えるほど〜」や「驚きの効果が!」など、曖昧(あいまい)な表現でしかその効果をアピールできない美容ビジネスに向けたもの。利用者は、普段使用している鏡のように、Kinect for Windowsが設置されたディスプレイの前に立ち、施術前の顔の形状を計測。その後、エステや美容器具で顔の施術をし、再度、計測することで、施術前後の変化を可視化する。どの部位が、どのように、どの程度変化したか、その効果を数値とビジュアルにより具体的に表現できるため、「商品に対する安心感・納得感を引き出すことができる」(岩瀬さん)とアピールしていた。
審査員からは「顔だけでなく、体全体、フィットネスクラブや家庭内でも利用できるのではないか。多くの可能性を感じた。さらに完成度を高め、パートナー企業などを見つけて、ぜひ製品化を目指してほしい」とのコメントが送られた。これに対し岩瀬さんは「非接触バイタル・センシングの上田さんの発表を聞いたときはすご過ぎて帰りたくなったが、このように評価していただいてうれしく思う」と控えめなコメントを残していた。この作品の注目度は高く、他の審査員からは「Kinect Fusionの使い方を提案していた点を高く評価している」との声も上がっていた。
今回は、Kinect for Windowsビジネスの現状、Kinect for Windows Contestの狙い、そして、Kinect for Windows Contest 2013の大会結果を駆け足でお伝えした。次回は、入賞3作品の詳細と、惜しくも敗れた7作品の概要を紹介したい。(次回に続く)
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