「Kinect for Windows」を活用したビジネスアイデアを競う「Kinect for Windows Contest 2013」が2013年9月19日に開催された。前回に引き続き、各チームの作品を紹介。今回は後半5作品のプレゼンテーションの模様をお届けする。
マイクロソフトのモーションセンサーデバイス「Kinect for Windows」を活用したビジネスアイデアを競う、「Kinect for Windows Contest 2013」(主催:東京エレクトロン デバイス)が2013年9月19日に開催された。前回は、決勝大会に出場した全10作品(チーム)のプレゼンテーションのうち、前半5作品を取り上げた。今回は残り5作品の内容を紹介する。
プレゼンテーションの順番は、表1の通りだ。本稿でもこちらの順番に沿って各チームの作品を紹介していきたい(今回はNO. 6のカモスから)。結果については、連載第1回をご覧いただきたいが、三木大輔さんの「Kinectを用いた腹腔鏡下手術支援システム2013」が「アイデア賞(賞金10万円)」を、上田智章さんの「非接触バイタル・センシング(呼吸と心拍)」が「技術賞(賞金10万円)」を受賞。そして、フェイスライン測定システム「face4D」を開発したfour-dee(岩瀬聡一郎さん)が「グランプリ(賞金100万円)」に輝いた。三木さんと岩瀬さんのプレゼンテーションの模様は、前回の記事を参考にしてほしい。
NO. | チーム名(参加者名) | 作品名 |
---|---|---|
1 | TME | 簡易疲労度測定システム |
2 | ヨシダチーム | ツミキスカイタワー |
3 | リサーチキング | 自律巡回 Kinect警備ロボ Pochi Mk-II |
4 | four-dee | face4D(フェイスフォーディー) |
5 | 三木大輔氏 | Kinectを用いた腹腔鏡下手術支援システム2013 |
6 | カモス | アド・マエストロ |
7 | 上田智章氏 | 非接触バイタル・センシング(呼吸と心拍) |
8 | 稲葉洋氏 | 医薬品監査システムの開発 |
9 | RehAct®研究会 | 高齢者遠隔運動指導・管理モデルRehAct® |
10 | anno lab | あの体を使って遊べるアトラクション型ゲーム集 |
表1 「Kinect for Windows Contest 2013」の決勝大会に進出した10チーム(プレゼン順) |
休憩を挟んでの後半戦。6番目にプレゼンテーションを行ったのがカモスだ。本業として楽譜販売を手掛けるカモスは、Kinect for Windowsセンサーを用い、誰でも指揮者になれるアプリケーション「AdMaestro(アド・マエストロ)」を考案・開発した。このアプリケーションは、CDの再生速度を自分の指揮で任意に変化させることができるというものだ。
利用者は、Kinect for Windowsセンサーの前に立ち、指揮者のように手(右手を認識)を動かすことで、再生されている音楽のテンポを自由に変えることができる。「Kinect for Windowsセンサーで指揮者の手首の動きを捉える技術と、音程を変えないで音楽の再生速度だけを変化させる技術を組み合わせて、アド・マエストロを実現させた」(カモス)という。
基本的なシステム構成は、アド・マエストロをインストールしたPC(Windows 7)、Kinect for Windowsセンサー、スピーカーの3つ。曲のスタートおよび再生速度は、素手あるいは指揮棒を持った右手の動作により制御される(一般的な指揮法に準拠する他、単純な縦振りや円を描くような動作も認識する)。通常、指揮者は譜面を見ながら指揮をするので、演奏が始まればPCの画面を一切見る必要はないという。
「アド・マエストロは編集モードを備えており、PCに取り込んだWAVEファイルなどの音楽ファイルに、あらかじめ拍や小節数などの音楽情報を追加しておくことで、指揮による再生速度の変更が可能となる。指揮者の動きをKinect for Windowsセンサーで捉え、解析し、再生速度の入力情報として変換。この情報を基に、音楽の再生速度を変更させている」(カモス)。
ターゲットは、音楽・オーディオ愛好家市場、教育市場、シニア市場、カラオケ市場などが考えられるという。「CDは演奏を聴くために作られている。従って、そのCDの音楽で指揮がしたいと思っても、人間がそのCDに合わせて指揮棒を振るしか指揮者気分を味わうことができい。しかし、アド・マエストロであれば、CDの中の演奏者と、自分自身の指揮を融合させた世界を実現できる。有名なオーケストラが自分の指揮に合わせて演奏してくれるのだ」(カモス)。
アド・マエストロは既に製品化(ダウンロード販売)されており、1万5000円で入手することが可能だ(Webサイト)。「現在、ほそぼそと販売を行っているので、販売体制で協力してくれるようなパートナーを募っている。アド・マエストロは世界市場でも十分に受け入れられると信じている」(カモス)と製品をアピールした。
続いて登場したのは、「技術賞」に輝いた上田智章さんの「非接触バイタル・センシング(呼吸と心拍)」だ。
このシステムは、Kinect for Windowsセンサーで取得したデプス画像から呼吸を、赤外線画像から心拍を計測するというものだ。Kinect for Windowsセンサーから1.2m離れた位置でも呼吸と心拍を高精度に計測できるのが特長で、何と暗闇でも衣服を着た状態でも、厚手の布団をかぶった状態(ただし身体に密着させた状態であること)でもリアルタイムに計測できるという。「Kinect for Windowsセンサーには、人間の骨格を追尾できるスケルトントラッキングという機能があり、これを用い胸部と顔の位置を捉え、呼吸と心拍を測っている」と上田さん。
呼吸の計測に関しては、「Kinect for Windowsセンサーで得られるデプス値は、mm単位しか得られないが、多数の画素の加算平均処理によって分解能をアップさせることで、50μmの精度で胸部の変動を捉えることに成功。これにより呼吸を正確に捉えることができる」(上田さん)と説明。一方の心拍ついては、「Kinect for Windowsセンサーは赤外線レーザーで約3万個のランダムドットパターンを照射しており、その反射量の変化で心拍を計測している。人体の皮膚の下には毛細血管があり、そこを流れる血液中のヘモグロビンの赤外線吸光特性を利用し、毛細血管のわずかな動き(細くなったり、太くなったり)を捉え、脈拍を計測できる」(上田さん)という。
「こんなにすごいセンサーがたったの2万4800円で買えるなんて! これまで身体に付けるタイプの医療用センサーの開発などを手掛けてきたが、Kinect for Windowsセンサーの精度を知って愕然(がくぜん)とした。俺の20年は何だったのか……。それぐらいの衝撃を受けた」と、上田さんは会場の笑いを誘いながら、Kinect for Windowsセンサーの魅力を興奮気味に話していた。
利用シーンとしては、「家庭・病院・老人ホームなどでの健康状態の見守りや、睡眠時無呼吸症候群の防止が考えられる。また、映画館で観客の興奮状態などを計測することで、映画の評価システムにも応用できるのはないか。他にも、特殊メイクを用いた犯罪やウソ発見器、自動車運転中のバイタルチェックなどが考えられる」(上田さん)。
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