稲葉洋さんは、Kinect for Windowsセンサーを用いることで、薬剤師による調剤ミスをなくす「医薬品監査システム」を開発した。
現在、調剤薬局において薬剤師による調剤ミス(薬の取り間違え)の事例が幾つか報告されているという。それらのミスの多くは、薬品棚から薬をピッキングする際に発生しており、一部の調剤薬局では、薬品棚に対する工夫(配置、注意書きなど)や高価なバーコードリーダーを用いた検査などが行われている。これに対し、稲葉さんは「バーコードリーダーを用いた検査は大規模店などで行われているケースが多いが、通常のピッキング作業に加え、バーコードの読み取り作業も発生するため作業負担・時間の増加が課題となっている。また、手にバーコードリーダーを持ちながらのピッキングになるため、作業効率の低下にもつながる。薬には袋やカプセルに入ったものだけではなく、液体や粉状のものもあるため、精密機器に触れることも問題といえる」と指摘する。
そこで、稲葉さんは「調剤ミス発見」と「バーコード検査の問題点解消」をテーマに掲げた監査システムの開発に着手した。システム構成は次の通り。薬品棚を見下ろすように設置されたKinect for Windowsセンサー、ピッキングした薬の情報などを表示するディスプレイ、記録用PC/照合用PCだ。
まず事前作業として記録用PC上で「薬品棚マスター」を作成する必要がある。このマスターは棚の各位置における座標とそこに何が収納されているかの対応表のようなものだ。実際のピッキング作業時には、Kinect for Windowsセンサーで薬剤師のピッキング動作を認識・記録し、収集した薬品のリストを出力する。その後、照合用PCにおいて、収集した薬品のリストと別所で入力された処方せんデータを照合し、正しくピッキングされたかどうか、その結果を表示する。「ピッキングの動作は、薬剤師の手先がトレイの位置に来たかどうかで判定している。また、PCなどに触れることなくピッキング作業を終了できるようジャスチャ−認識での終了操作が可能となっている」(稲葉さん)。
「本システムであれば、従来のピッキング作業のままで、調剤ミスを発見できる」と稲葉さん。その他のメリットとして、「ピッキングの経過を記録していることから業務改善や盗難防止、間違えやすい薬品の特定(医薬品メーカーへのデザイン改善要望につなげる)などにも役立てられるだろう」(稲葉さん)とアピールした。
Kinect for Windowsセンサーを用いた「高齢者遠隔運動指導・管理モデルRehAct」を提案したのがRehAct研究会だ。
RehActとは、各種テクノロジーを有効活用し、苦しく、大変なリハビリを“楽しく”継続できるよう支援する、東北福祉大学が推進するプロジェクトのことである。「今後、予防可能な医療は自助努力で! という風潮が高まっていく。そのため、自分の健康は自分で維持していかなくてはならない。こうしたことから、在宅での質の高いリハビリや予防的取り組みに対する需要が高まってくだろう」(RehAct研究会)と、高齢者向けのリハビリトレーニングの重要性を説明。さらに、東日本大震災の発生を契機に、仮設住宅に住む高齢者の活動量の低下や、頻繁にリハビリに通うことができなくなったという問題が浮き彫りになり、楽しく継続できるリハビリトレーニングの必要性がさらに高まったという。
そこで、RehAct研究会は、ゲームとの親和性が高く、専用の3次元動作解析装置などと比べて格段に安価で、設置が容易なKinect for Windowsセンサーを活用したリハビリ指導システムの開発に着手。「Kinect for Windowsセンサーであれば、“専門的な目”の代わりに、客観的なデータ化が可能になる」(RehAct研究会)と考えた。今回、RehAct研究会が取り組んだのは、遠隔運動・管理システムの構想の中で、“楽しくゲームをしているうちに、標準化された測定指標に基づいた運動機能データを収集する”という部分である。
ゲームコンテンツとしては4つが用意されており、ゲームを通じ「Functional Reach Test」「Tandem立位 Test」「立位姿勢評価」などを評価できる。「従来、専門家が行っていたテストや指導Tipsが盛り込まれている」(RehAct研究会)。既に学会レベルでは筋力やバランス機能の向上などの効果が認められる点などを発表しているという。「現場では、多人数で同時に楽しめるコンテンツのニーズなども上がっており、これから登場する新型のKinectセンサーに期待している(現行Kinectではスケルトンデータを認識できる数が最大2人なので)」とRehAct研究会。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.