カーエレクトロニクスの歴史はダイオードやTrにより始まりましたが、本格的なカーエレクトロニクスの時代はマイコンの出現以降に訪れます。
図11にマイコンの内部構成図を示します。
図11 マイコンの基本構成(点線内) |
主に、「ROM(Read Only Memory)」からの命令を解読してデータ処理を実行する「CPU(Central Processing Unit)」、プログラムやデータを保持するメモリ、外部のセンサやスイッチ類からの信号を処理する入力処理回路からの信号を受け取るための「入力ポート」、CPUからの演算結果などに基づく制御信号を出力処理回路に送るための「出力ポート」から構成されています。
CPUと各メモリ、入力/出力ポートはバスライン(以下、バス)で接続されています。このバスは一度に送る語長により本数が決まります(例:語長が8ビットだと8本必要)。このバスにはデータをやりとりする「データバス」、メモリや入力/出力ポートのアドレスを指定する「アドレスバス」とシステムの動作を制御する「制御バス」があります。
例えば、CPUからメモリや入力/出力ポートからデータを受信したいときに制御信号を制御バスに出します。次に、受信したいデバイスのアドレスをアドレスバスに出します。その指定されたデバイスはデータをデータバスに出して、CPUはそのデータを受信します。このような一連の動作をマイコンはROMに書かれたプログラムによって行います。これはマイコンが直接理解できる言語、いわゆる「機械語」のプログラムです。この機械語の実態は2進数であり人間が理解するには難しいため、開発には機械語の命令に対応した「アセンブリ言語」が用いられます。例えば、機械語の加算命令「10001011」は、アセンブリ言語で「ADD」と表現します。最終的に、アセンブリ言語で作ったプログラムは、「アセンブラ」というソフトウェアで機械語に変換されて、実行されます。
また、人間の言葉に近い高級言語として「C言語」「BASIC」「FORTRAN」などがありますが、最近では特にC言語を開発に用いるケースが増えてきています。ちなみに、これら高級言語の場合、機械語に変換するためのソフトウェアを「コンパイラ」といいます。
マイコンの分類にはデータ語長、すなわちアキュムレータのビット数で分類する方法があります(1ビット、4ビット、8ビット、16ビット、32ビットマイコン)。最近では、32ビットのマイコンが一部自動車用として使用されはじめています。
さらに、マイコンをデバイス技術的に見ると「NMOS」と「CMOS」に大別されます。自動車に使用する場合は低消費電力でなければなりません。NMOSマイコンは100mA程度の電流ですが、CMOSは10mA程度のためキースイッチをOFFにしても動作する必要がある自動車に向いています。現在のガソリンエンジン総合制御装置などの高精度を要求されるシステムにはマイコンがいくつも使用されています。つまり、『マイコンなしでは自動車のシステムが成り立たない』といえます。
関連リンク: | |
連載記事「マイコン制御基礎以前」 http://monoist.atmarkit.co.jp/fembedded/index/miconkiso1.html |
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連載記事「マイコン制御基礎の基礎」 http://monoist.atmarkit.co.jp/fembedded/index/miconkiso2.html |
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連載記事「H8で学ぶマイコン開発入門」 http://monoist.atmarkit.co.jp/fembedded/index/h8.html |
最後に、ECUについて説明します。ECUは図12のとおり、これまで解説してきた素子や回路でできています。
図12 ECUの構成 |
入力処理回路は、各種センサからのさまざまな信号やスイッチのON/OFF信号をマイコンで扱える信号にする処理回路です。各種センサやスイッチからの信号線に乗った大きなノイズ、あるいは誤結線などによりECUが壊れないように「バッファ(Buffer:緩衝回路や波形整形回路)」を設けています。
アナログ信号の場合には、マイコンが扱えるようにデジタルに変換する「A/Dコンバータ」が要ります。自動車において一番精度の必要なセンサは「エアフロメータ(吸入空気量センサ)」です。吸入空気量に対応したアナログ電圧をデジタル変換しなければなりません。精度は11ビット(10進で2048、1ビット:0.048%)必要です。このセンサはエンジンで使用するもので、高速変換が必要なため逐次比較型A/Dコンバータなどが使用されています。また、アナログ信号はこれだけではなくほかにも多くあります。
A/Dコンバータは、アナログ回路とデジタル回路で構成されています。精度を上げる場合、デジタル回路であればけた数を上げればよいのですが(連載第2回「カーエレの発展に欠かせない“5つのエポック”」参照)、アナログ回路の場合はそうもいきません。レーザートリミングなどのため高価になってしまいます。つまり、本来ならばアナログ信号の数だけA/Dコンバータが要りますが、アナログスイッチとロジック回路で構成された「マルチプレクサ(Multiplexer)」を図12のようにA/Dコンバータの前に接続することによりアナログ信号を時分割でA/D変換して、マイコンの入力ポートに送ります。
また、精度が必要なければ、入力バッファで電圧を調整したり、A/Dコンバータの上位けたを取り出せば8ビットでも6ビットでも可能です。パルスなどのデジタル信号は、デジタルバッファで波形整形して、マイコンの入力レベル(ほとんど5V)にして、入力ポートに送ります。マイコンは、上述のようにデータを処理して出力ポートから出力処理回路に出力します。出力処理回路は、マイコンからの信号が各アクチュエータを駆動できるように電力増幅したり、波形を変換したりする回路です。
マイコンは、高周波のクロック信号で動作します。このクロック信号はマイコンのクロック端子に水晶振動子が接続されて作られており、4〜16MHzの高周波が使用されます。水晶振動子の正確な周波数で発振しますので、タイマー機能もできます。図12のECUが基本となり、自動車のいろいろな電子制御システムにマイコンが頻繁に使用されています。また小規模なシステムではマイコンを使用せずにアナログICやデジタルICなどで構成した制御回路も使用されています。
関連リンク: | |
@IT MONOist−組み込み開発 カーエレクトロニクス関連記事一覧 http://monoist.atmarkit.co.jp/fembedded/index/embedded.html#car |
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さて、今回は以下の内容について解説しました。
いかがでしたでしょうか? 自動車用電子制御回路の基本と、それを構成する素子や回路を理解していただけましたでしょうか? 次回は「エンジン制御とエレクトロニクス」をテーマにお届けします。ご期待ください!(次回に続く)
【参考文献】 (1)「カーエレクトロニクス」 志賀 拡、水谷 集治/山海堂 (2)「自動車の電子システム」 荒井 宏/理工学社 (3)「半導体(図解雑学)」 燦 ミアキ、大河 啓/ナツメ社 (4)「図解 はじめて学ぶ電子回路」 谷本 正幸/ナツメ社 (5)「OPアンプ活用100の実践ノウハウ」 松井 邦彦/CQ出版 (6)「トランジスタ技術(2002年4月号)」/CQ出版 (7)「トランジスタ技術(2003年4月号)」/CQ出版 (8)「定本 OPアンプ回路の設計」 岡村 廸夫/CQ出版 |
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