東京大学とIBMがゲート型商用量子コンピュータ「IBM Quantum System One」の2回目のアップデートを行うことを発表。また、東京大学と筑波大学が共同運営するスパコン「Miyabi」と接続した「量子AIハイブリッドコンピューティング」にも取り組む。
東京大学とIBMは2025年5月16日、東京都内で会見を開き、2021年7月から稼働を開始しているゲート型商用量子コンピュータ「IBM Quantum System One」の2回目のアップデートを行うことを発表した。2025年後半に導入予定の量子プロセッサ「Heron」は156量子ビットで、2023年10月の1回目のアップデートで導入した127量子ビットの「Eagle」と比べて10倍の性能を備えているという。2025年度後半からは、東京大学と筑波大学が共同運営するスーパーコンピュータ(スパコン)「Miyabi」と接続した「量子AIハイブリッドコンピューティング」により、さらに高度な科学技術計算が行える環境を提供する予定だ。
東京大学 総長の藤井輝夫氏は「今回、156量子ビットへの拡張とMiyabiとの接続には大きな意味がある。近年は気候変動をはじめ、国際戦争や貧困、感染症などの地球規模の問題、未曽有の困難が顕在化しているが、これらの課題は既存の手法や体制だけでは解決できず、新たな発想や学知を生かしていくことが必須のものとなっている。量子コンピューティングは新たな知に裏打ちされた技術であり、これまで手掛けられなかった未踏の問題に挑むことを可能にするものだ。東京大学は今後も量子科学の学理探求を進めて、その社会実装に貢献していきたい」と語る。
日本IBM 代表取締役社長の山口明夫氏は「Heronは、量子ビット数、量子ビットのエラー率、量子演算の処理速度、これら3つの観点で世界最高水準の性能を備えている。IBMはこれまで世界で約80台の量子コンピュータを稼働してきたが、2029年にはエラー訂正機能を備えた量子コンピュータを投入する計画であり、より多くの研究開発に貢献していけるだろう。また、量子コンピュータとスパコンの連携により、今後2年以内に既存のスパコンを大きく超える成果が得られるようになると考えている。このQCSC(Quantum Centric Super Computing)の実現も目指していきたい」と述べる。
IBM Quantum System Oneを活用した産学の研究活動を推進するQII(量子イノベーションイニシアティブ協議会) 会長の小柴満信氏は「2025年2月の日米共同声明でAI(人工知能)と量子コンピュータの技術開発で協力していくことを発表するなど、経済安全保障の観点で量子とAIは外せないものになっている。今回、世界最高水準のHeronが導入され、Miyabiとのハイブリッド演算も可能になることは、われわれQIIにとっても大きな意味がある」と強調する。
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