今回の調査報告書に関する記者会見では、責任の所在についても繰り返し追及されました。しかし、誰かが辞めて解決するとは思えないし、すでに日野自動車を去った人に原因があったとして、さかのぼって償いを求めることも難しいでしょう。調査報告書には「上層部の人間が入れ替わっても、この風土で育った人がやっているうちは何も変わらないのがオチだろう。組織風土を変えられるとすれば、本件のようなタイミングしかない」という指摘もありました。
これまでの自動車業界の不正の事例にならえば、システムの導入や仕組み、ルールづくりによって防げる部分は大いにあるでしょう。しかし、問題が発生した部署を助けることなく、担当者をつるし上げるだけの「お立ち台」など、文化として変わらなければならないところも多いように思いました。
調査報告書には「三遊間」という言葉も出てきました。三遊間とは、三塁手と遊撃手の中間で、両者とも拾えずにヒットになりやすいエリアを指す野球用語から転じて、業務をどの部署や担当者で担当するかが明確でなく、誰も拾わずに組織内で見落とされる業務を意味します。
日野自動車では組織変更が多く、部署がくっついたり離れたりする中で引き継ぎやすりあわせがうまく行われない……ということが起きていたようです。三遊間が生まれやすい運営だったのです。そこで、三遊間を積極的に拾いに行く文化があれば問題はなかったのかもしれませんが、日野自動車では自分の部署の担当以外は拾いに行かない文化の醸成につながってしまいました。
調査報告書は270ページに及びます。SNSでは目を通して「自分の会社にも似たようなところがある」と共感を示す人もいました。私もアンケートの生々しい回答を見て、「どこの会社にもありそう」と思ってしまいました。言ってもどうせ変わらないと思う気持ちも経験があります。
特殊で異質な組織であれば、なぜそのようなことが起きているのかを外部の人に理解してもらうことすら難しいでしょう(昨今の宗教団体を巡る報道は最たる例かと)。共感を得られるということは、外部から意見や指摘をもらったり、他社の成功例から学んだりすることで会社が変わる可能性があるのではないでしょうか。それが「どこの会社も同じだから」と変わらずにいる言い訳になってしまうとよくないのですが。
調査報告書のアンケートに関する記述の中には、日野自動車に対する愛着や仕事への誇りについて言及したものもありました。また、良くも悪くも真面目な会社であるという回答も見られました。会社として立ち直ることに期待しています。
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