設計者CAEとは何なのか3D設計推進者の眼(2)(2/2 ページ)

» 2015年08月31日 11時00分 公開
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 そこで、まずは単一部品や、装置の中で多用される溶接構造部品の解析を行うことを決めてCAEの運用を開始しました。また同時に解析結果と実態のすり合わせも行いました。単純な部品であれば、解析によって求められる変位やひずみが測定可能です。材料にひずみゲージを貼り付けて、おもりを乗せることで、荷重を与えて変位やひずみを測る実験を行い、さらにCAEの結果と比較し、特性を見つけていきます。その後、熱伝導の評価なども行います。

 CAE結果と実験結果は、数パーセントから数十パーセントの違いを生じることもありました。しかし、それも事実であって、その理由や傾向を解析者が理解しているかが重要です。チュートリアル(CAE解説書)を見ながら解析の条件を設定していくことは、ソフトの操作さえできれば、装置(解析対象)を知らない人でも、工学的な知識のない人でも出来てしまいます。しかし、その解析結果をどう考えるのか、どう判断するのかは、誰でも出来るわけではありません。

 設計者であり、これまで装置を見てきた私や技術者が、初歩的なところからCAEを用いて、地道に検証を行いながら進めてきたことにより、今では少しずつですが成果を出すことができています。現在でも解析結果に対する適切な判断についてよく話題になります。これは解析にとって永遠のテーマなのではないでしょうか。昨今ではV&V(Verification and Validation:検証と妥当性確認)について議論されることが多く、ISO 9000でもそれが求められていると聞いています。

設計者CAEの手順は大きく変化したのか?

 私が進めているCAEの推進は「解析専任者によるCAE」ではなく、「設計技術者による設計者CAE」です。設計者がKKDだけではなく、技術的根拠を持った最適設計を行う上で、設計者自身が、便利な解析ツールを電卓代わりに使えるようにしたいという私の思いがあるからです。

 私の現場のような個別受注の産業機械に特有の状況ですが、開発設計期間を十分に確保することが難しくなっています。設計者は「今すぐに答えが欲しい」ということが多く、CAEによる評価も数日かけて行うことは難しく、設計変更に対してすぐに結果を出す必要があります。

 最近、解析業務をお仕事にされている人と会話をすることがありました。もちろん、その方が携わる解析内容とは違いがあるのですが、「待って3日間、可能であれば1日、いや……、半日で解析結果を出したい」という私の話にびっくりしていました。とはいえ、これは私がいる業界での現実なのです。

 私の考えは設計者主体なので、もしかして偏っているかもしれませんが……、設計者CAEについて以下のように考えます。

 「きれいなメッシュを切る」「メッシュサイズの妥当性を探る」「制約のある設定条件の中で最適な条件を設定する」「解析しやすいモデルに編集する」などといった行為が、CAEを運用する中で多く発生します。ただ、あくまで解析結果は設計のパラメータを決定するためのものであって、最終的には「設計のアウトプット」という形としてのみ見えるわけです。

 もちろん、CAEを用いることにより、試作回数やFコスト(Failure cost)を削減することも可能となりました。しかしこれらもまた、設計のパラメータを決めることができた上での産物だと私は考えます。

 3D CADやその周辺ツールが進化し、設計手法についてもさまざまな議論と変革が進んでいますが、CAEの世界は何か変化したのでしょうか?

 確かに、メッシュ作成機能が向上したり、計算結果表示機能が拡充されたり、計算処理速度が改善されたり、GPUコンピューティングの対応が始まったり、新たな解析手法がツール化されたり、CAEは進化してきています。

 ですが3D CADを用いたCAEの場合は、モデルを作成(編集)して、メッシュを切って、諸条件を設定して、計算結果を得るという手順そのものには変化はありません。また、解析の知識と解析を用いるための工学的な知識習得の問題や、CAEの実践力の高め方については、相変わらずさまざまな設計現場で問われ続けています。

設計者CAEのあるべき姿とは

 CAEを用いた設計業務のやり方は、一体何が変化したのでしょうか?

 私が以前から望むように、設計業務において電卓代わりにCAEが用いられているでしょうか?

 私の現場で、設計開発の中でCAEが用いられるタイミングは詳細設計がかなり進んだ段階です。短納期対応と設計時間の確保さえ難しくなってきている設計者が、解析作業の時間を確保するのは非常に難しいです。

 設計者CAEを推進してきている私も、設計者より3Dモデルを受け取り、解析しています。その中でさえ、さまざまに設定条件を変更して解析する時間を持つことが困難な状況です。本来であれば、メッシュサイズ変更による計算結果の収束を評価すべきですが、マシンの能力に依存してしまい、小さなメッシュを切って計算させているというのが現実だったりします。

 解析を実行するにあたっては、設計仕様からリスクを分析して、予測される問題や解析評価内容、その妥当性検証を検討します。解析対象に対して漏れなく検証していきたいからです。その検討段階においても、また解析結果からも、もっと早い段階で設計方針を良い方向に決めていたのなら、もっと良い結果を得られたのではないかと考えることがあります。解析結果から大幅な設計変更をした方がよいと判断しても、詳細設計の後半ではそれが困難な場合があり、妥協せざるを得ない場合もあります。

 構想設計か詳細設計の前半で、設計の方向性を決めるためにCAEを用いることで、前述の問題に取り組むことが可能ではないかと私は考えます。製品品質を決めるといわれる設計初期段階は、これまで設計手法や3D CAD運用において「手が付けられなかった領域」でした。

 設計初期とは、例えばポンチ絵を描いている段階、設計計算書を作成しているような段階です。詳細設計におけるCAEの必要性については言うまでもありませんが、設計計算書の代わりにCAEの結果を使い、それが上手く詳細設計につながっていけば、設計者に業務を付加するのではなく、本来設計者がしなければならない業務において、その品質向上と合理化を図る仕組みとして、設計者CAEが確立できます。

 この仕組みをかなえるためには、設計者が3D CADだけを操作しているだけのように、道具を切り替えずに、ツールを使うことができる作業性が望まれます。3D CAD関連では、新たに概念設計と共有を行うためのツールや、技術計算のドキュメント化と共有を行うための概念設計ツールなどが登場し、これまで手つかずであった構想設計の領域の流れが大きく変わる可能性が出てきました。



 現在、装置産業において設計者CAEを進め、理想と現実を見ている私の考えですので、他の業種や解析専任者の方々と意見は異なることでしょう。しかしながら、私は今回お話した考え方に基づいて設計者CAEの変革を求めていきたいと考えています。


Profile

土橋美博(どばし・よしひろ)

1964年生まれ。25年間、半導体組み立て関連装置メーカーで設計・営業・3次元CAD推進を行う。現在、液晶パネル製造装置を主体に手掛ける株式会社飯沼ゲージ製作所で3次元CADを中心としたデジタルプロセスエンジニアリングの構築を推進する。ソリッドワークス・ジャパンユーザーグループ(SWJUG)の副代表リーダー・事務局も務める。



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