最近の安価な3Dプリンタは設計者にとっての選択肢になり得るのか?テルえもんが見たデジタルモノづくり最前線(9)(1/3 ページ)

連載「テルえもんが見たデジタルモノづくり最前線」では、筆者が日々ウォッチしているニュースや見聞きした話題、企業リリース、実体験などを基に、コラム形式でデジタルモノづくりの魅力や可能性を発信していきます。連載第9回では、気軽に導入できる「安価な3Dプリンタ」の選定ポイントや動向について取り上げます。

» 2025年01月17日 09時00分 公開

 近年、3Dプリンタは技術の進化と普及、特許切れなどに伴い価格が下がり、数万円程度で購入できる安価な機種も(中には1万円台のものも)登場し、個人でも気軽に導入しやすくなりました。中でも、造形方式が材料押出(熱溶解積層法)液槽光重合(光造形)の3Dプリンタは低価格帯の機種が充実しています。

 今回は筆者の実体験も踏まえながら、主に材料押出方式の安価な3Dプリンタを中心に取り上げ、機種選定のポイントや技術動向について取り上げたいと思います。ちなみに、材料押出は熱で溶かした樹脂をノズルから押し出し、一筆書きのように積層していく造形方式のことで、MEXやFDM、FFFなどとも呼ばれています。一方の液槽光重合は液体状の樹脂に光を照射して硬化させて積層していく造形方式のことで、VPPであったり、光の照射方法によってSLA、DLP、LCDなどと呼ばれたりします。

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安価な材料押出方式3Dプリンタの選定ポイント

 手頃な価格で導入しやすくなってきた材料押出方式3Dプリンタの選定ポイントについて、筆者の過去記事「いまさら聞けない 3Dプリンタの選定基準」の内容に合わせて、以下の6つのポイントで解説していきます。

  1. 導入コストや材料費などのランニングコスト
  2. 造形時間などのスピード
  3. 積層ピッチなどの造形品質
  4. 強度/剛性
  5. 日々のメンテナンスやサポート材の除去などの後処理
  6. 造形できるサイズ

1.導入コストや材料費などのランニングコスト

 基本的に安価な材料押出方式3Dプリンタの場合、本体の導入コストだけでなく、材料費などのランニングコストも安く抑えることができます。

 高額でハイエンドな3Dプリンタの中には、メーカー指定の専用材料を用いる必要があるものも存在し、ランニングコストが高くなってしまう傾向にあります。これに対し、安価な機種の場合には、ECサイトなどで流通している汎用(はんよう)的な材料を利用できるものもあるため、(使用したい材料によって異なる場合もありますが)ランニングコストを比較的低く抑えることが可能です。

 筆者のこれまでの経験上、機種によって大きく異なるということはありませんでしたが、材料以外の消耗品および交換部品の価格、メンテナンス頻度などについても、3Dプリンタの導入前にしっかりと調べておきましょう。

 スライサーソフトについても無償で提供されているものと、より高度な設定などが可能な有償のものがあります。筆者の知る限りではどちらかというと、無償のソフトで運用している現場の方が多い印象です。スライサーソフトの詳しい内容については、過去記事「3Dプリンタの設定を追い込む!! スライサーの役割と基本項目を学ぶ」をぜひご覧ください。

 また、3Dプリントの前処理/事前準備を行うPCについても注意が必要です。単にスライサーソフトを動かすだけであればハイスペックなPCは不要ですが、3Dデータ作成のために3D CADも使用するようなケースでは、それなりにコストをかけて性能の良いマシン環境を用意すべきでしょう。

無償のスライサーソフト「UltiMaker Cura」の設定画面例。(左)が簡易版で、(右)がBasic版となる 図1 無償のスライサーソフト「UltiMaker Cura」の設定画面例。(左)が簡易版で、(右)がBasic版となる[クリックで拡大]

2.造形時間などのスピード

 筆者が安価な材料押出方式3Dプリンタを購入し始めた当初は、造形スピードに対する期待はそれほどなく、「安いしこんなものだろう」という感想でした。しかし、使い込んでいくうちに造形スピードに対する欲も出始めて、「もっと早く造形できる機種はないか?」と考えるようになりました。

 先に紹介したスライサーソフトの設定によって、造形時間をある程度は短縮できますが、当然機種によってMAXの速度は決まっています。また、造形スピードを上げたり、積層ピッチを粗くしたりして時間短縮を図ったとしても、それに比例して造形品質が落ちるため、結局はバランスの取れた設定で運用することになります。

 最近では、安価な材料押出方式3Dプリンタでも品質を保ちつつ、高速に造形してくれる機種もいくつか登場し始めていますが、スピードが速い分、動作音(騒音)も大きくなるため、静かなオフィスでの導入/運用を検討されている場合は注意が必要です。

3.積層ピッチなどの造形品質

 モノを作る上で品質は重要なポイントですが、高額な3Dプリンタと比べると、どうしても安価な3Dプリンタの方が品質的に劣ります。

 特に、造形方式が材料押出の場合には限界があります。スライサーソフトの調整によってある程度はきれいに仕上げることが可能ですが、出来上がりの精度や品質を考慮した設計、後加工での調整を考慮した方がよいでしょう。

 また、品質を求めるのであれば造形をサービスビューローなどに外注するという手もあります。ほとんどの場合、3Dデータさえあれば、Webサイトから簡単に見積もりも発注も行えます。

 ちなみに、液槽光重合方式の3Dプリンタであれば、材料押出方式よりも表面がきれいに仕上がります。ただ、洗浄や硬化などの後処理の手間が掛かるので注意が必要です。詳しくは、過去連載「いまさら聞けない 3Dプリンタの後処理」を参考にしてください。

 品質の他、造形の安定性も重要な選定ポイントとなります。造形の不具合にはさまざまな原因が考えられるため、解決に時間を要することがあります。「早くモノがほしい!」「次の仕事もあるのに!」と急いでいるときは特に焦ってしまいます。そのため、3Dプリンタの扱いに不慣れであれば、メーカーのサポートなどがきちんと付いている機種を選んだ方がよいでしょう。

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