3Dプリンタや3Dスキャナ、3D CADやCGツールなど、より手軽に安価に利用できるようになってきたデジタルファブリケーション技術に着目し、本格的な設計業務の中で、これらをどのように活用すべきかを提示する連載。第3回は、3Dプリンタの特長や造形方式による違いなどに触れつつ、導入時に検討すべき「3Dプリンタの選定基準」について解説する。
3Dプリンタの導入を検討する際、どのような基準で機器を選定したらよいのでしょうか。
世の中には、さまざまな3Dプリンタのメーカーが存在し、機種、造形方式、性能、価格などに違いがあります。そのようなたくさんの候補の中から、どの3Dプリンタを購入すればよいのかと、多くの方がインターネット検索などを利用して情報収集されていると思いますが、やはり初めてだと判断に迷うこともあるでしょう。
そこで今回は、3Dプリンタの特長や造形方式による違いなどに触れつつ、これまで複数台の3Dプリンタを活用してきた筆者の経験を踏まえて、「3Dプリンタの選定基準」について解説したいと思います。最後までどうぞお付き合いください。
3Dプリンタとは、基本的に材料を積層しながら造形物を作り上げていく機器ですが、その造形方式には大きく2つがあります。
それぞれかみ砕いて分かりやすく説明すると、
となります。
さらに細かく造形方式を分類すると、図2および表1のように7種類に分けられます。名称については多少の違いはありますが、本稿ではコンピュータ教育振興協会(ACSP)で実施されている「3Dプリンター活用技術検定試験」の公式ガイドブックに準じて説明することにします(注1)。
※注1:図2、表1に記載しているもの以外にも、メーカーによって違う名称や方式が存在します。
名称 | 概要 | 他の名称 | |
---|---|---|---|
1. | 材料押出 | 材料をノズルから押し出して積層する方式 | 熱溶解積層法、FDM |
2. | 液槽光重合 | 光硬化性樹脂に光を当て硬化させ積層する方式 | 光造形、SLA |
3. | 材料噴射 | 光硬化性樹脂をノズルから噴射して積層する方式。 | インクジェット式、MJP |
4. | 結合剤噴射 | 粉末材料に接着剤を噴射して積層する方式 | バインダージェット、CJP |
5. | 粉末床溶融結合 | 粉末材料にレーザーを当て、焼結を行って積層する方式 | 粉末焼結、SLS、SLM |
6. | シート積層 | シート状の素材を積層する方式 | LOM |
7. | 指向性エネルギー堆積 | レーザーを出す位置に材料を当て、焼結を行って積層する方式 | LMD、DMP |
表1 3Dプリンタ 7つの造形方式 |
なお、本稿では、造形方式ごとのメリット/デメリットについての記述は割愛しますので、詳しく知りたい方は、筆者のブログ「3DdoFactory」を参考にしてください。
3Dプリンタの購入を検討する際、造形方式の他にも、使える材料や造形サイズ、積層ピッチ、コストなどについて考える必要があります。
材料は、造形方式や3Dプリンタによって使えるものが変わってきます。樹脂や金属、砂、紙など、専用の材料しか使えないケースもありますし、硬いものから柔らかいものまで幅広い材料に対応できるケースもあります。
造形サイズについては、「大きければ、大きいほど良い」という考え方もありますが、置き場所に困ってしまったり、大きいものが造形できる分、造形物の品質や精度が落ちてしまったりする場合もあるので注意が必要です。「大は小を兼ねる」という、ことわざが当てはまらないということです。
造形物の品質や精度は、基本的に、積層ピッチに関係してきますが、「積層ピッチ=精度」ではありません。3Dプリンタのカタログには、多くの場合、精度ではなく積層ピッチが記載されています。確かに、細かな積層ピッチの方が仕上がりはキレイですが、3Dプリンタの機種を比較検討する際は、積層ピッチの数値だけで判断しないよう注意してください。
なぜなら積層ピッチは、材料を積み上げていく方向(Z方向)のピッチであり、X方向、Y方向の精度は別です。材料、ソフトウェア上での造形スピードの設定、機器の剛性の良しあしも造形物の品質や精度に影響します。
3Dプリンタの購入を検討する際は、メーカーや販売代理店などに造形サンプルを見せてもらいましょう。さらに、自社で作ろうとしているモノがある場合は、テスト造形を依頼して出来栄えをきちんと確認すべきです。
造形物の出来栄えについてですが、表面がツルツルしており積層痕が目立たないもの、逆に表面がザラザラしており積層痕が目立つものと、機種や材料、方式、あるいは設定などにより異なってきますが、「ツルツルでキレイ=精度が良い」というわけではありませんので注意してください。また、すごくキレイに仕上がるが造形時間が他の機種の何倍もかかるというケースもあり得るので、造形時間の比較も併せて行っておくとよいでしょう。
そして、コストについてですが、導入時のコストだけでなく、材料費やメンテナンス費などのランニングコストについても考えなければなりません。決して、本体価格だけで選ばないでください。材料費も機種によって異なりますし、PCや付帯設備などのハードウェアあるいはソフトウェアなどの環境整備に伴う費用、保守サービス費用なども考慮する必要があります。また、機種や設置場所によっては、フロアなどの床補強工事や電源工事なども伴う可能性もあります。
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