3Dプリンタの導入/活用を考える際、「サポート材」の存在も忘れてはいけません。
前ページの図1にも記載していますが、3Dプリンタで材料を積層していく際に、下に何もない状態(中空形状)だと、積層しようとした材料は空中にとどまることができずに下に落ちてしまいます。支えがないので当然ですね。
このようなことが起きないように、中空形状のある造形モデルの支えとなってくれるのがサポート材です。サポート材は、積層方向に対する配置の仕方によって、付き方が変わり、サポート材の除去のやり方も機種によってさまざまです。
サポート材の除去が大変なものもあるので、購入を検討する際にはサポート材の除去も一度、体験してみた方がよいでしょう。3Dプリンタによっては、サポート材が別材料で付き、水で溶かすことができるものや熱で溶かすものもあります。
ここまでの内容を整理し、3Dプリンタ購入を検討する際の指標となるレーダーチャートを作成してみました(図4)。
このレーダーチャートでは、3Dプリンタを比較する際のポイントとして、
の6つをピックアップしています。
この他にも、3Dプリンタの造形設定を行う「スライサー」と呼ばれるソフトウェアの機能性や操作性、使える材料の色や材質の種類の豊富さ、不具合や困ったときのサポート体制なども検討事項として挙げられます。
自社で3Dプリンタを導入する際は、どのような用途で使いたいのかを明確にし、本レーダーチャートを参考にして選定基準を作り、さまざまな3Dプリンタの機種を比較検討しましょう。
続いては、設計者の皆さんが使うべき3Dプリンタについて検討してみたいと思います。
もちろん、用途に応じて、3Dプリンタを使い分けるのが理想ではありますが、1社で複数台の3Dプリンタを購入して、メンテナンスもしながら使用していくのは非常に大変ですし、コストもかかります。
そこで、筆者のオススメとしては、最初の1台は自社の用途に一番マッチするものを購入し、好きな時に使える状態にしておき、使えないときや購入した3Dプリンタでは造形が困難な場合は、外部の受託造形サービスを利用するという方法です。
社内導入する3Dプリンタにコストがかけられないのであれば、FDM方式の3Dプリンタがよいでしょう(前ページ表1の材料押出)。安価なものであれば、3万円程度で購入でき、材料も1kg当たり3000円ほどで入手可能です。品質や強度など、高価な3Dプリンタと比較すると劣る部分もありますが、形状の確認や簡易的な治具の製作などであれば十分に活用できます。自前のFDM方式3Dプリンタでコストをかけずに、じっくりと設計検証を行ってから、受託造形サービスを活用して本格的な試作品を製作することで、ムダな失敗やコストを抑えることが可能です。
このように受託造形サービスをうまく活用していき、利用頻度が上がってきたところで、本格的にハイエンド3Dプリンタの購入検討を進めていくというアプローチの方が失敗のリスクは少ないと思います。「思っていたものが作れない」「コストがかかり過ぎる」といって、せっかく3Dプリンタを購入したにもかかわらず、使わなくなってしまったというケースもよく耳にします。そうならないためにも、受託造形サービスを活用して、いろいろな3Dプリンタで造形を試しながら、自社に最適な3Dプリンタを選定してください。
受託造形サービスの利用は非常に有効です。ただし、サービスに依存し過ぎても社内に3Dプリンタの活用ノウハウがたまりませんので、自社で3Dプリンタを保有し、いろいろとトライできる環境を整えておくことが重要です。これからのモノづくり、未来への投資だと思ってぜひ前向きに3Dプリンタの社内導入を検討してみてください。最初は安価な3Dプリンタでも構いません。失敗することもたくさんあるでしょう。ですが、きっとそこから何かを得ることができるはずです。本稿を参考に、3Dプリンタ導入/活用の第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。 (次回に続く)
小原照記(おばら てるき)
いわてデジタルエンジニア育成センターのセンター長、3次元設計能力検定協会の理事も務める。3D CADを中心とした講習会を小学生から大人まで幅広い世代の人に行い、3Dデータを活用できる人材を増やす活動をしている。また企業の困り事に対し、デジタルツールを使って支援している。人は宝、財産であると考え、時代に対応する、即戦力になれる人財、また、時代を創るプロフェッショナルな人財の育成を目指している。優秀な人財がいるところには、仕事が集まり、人が集まって、より魅力ある街になっていくと考えて地方でもできること、地方だからできることを考えて日々活動している。
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