3Dプリンタや3Dスキャナ、3D CADやCGツールなど、より手軽に安価に利用できるようになってきたデジタルファブリケーション技術に着目し、本格的な設計業務の中で、これらをどのように活用すべきかを提示する連載。デジファブ技術を活用した新たなモノづくりの視点や働き方、業務改革のヒントを製造業の設計現場視点で考察していく。
皆さん、こんにちは! 小原照記(おばらてるき)と申します。普段は岩手県の「いわてデジタルエンジニア育成センター」という施設で3D CADを中核とした、3次元モノづくりの人材育成と“企業さんのお困りごと”を聞いて支援する仕事をしています。当センターでは、3D CADをはじめとしたさまざまな設備を保有しており、学生や企業の方たち向けに講習会を開催したり、3Dプリンタによる試作や3Dスキャナを用いた検査およびリバースエンジニアリングなどの受託業務を行ったりしています。
そんな筆者ですが、今回は「デジタルファブリケーション技術を、設計業務でどう生かしていくか?」というテーマを取り上げ、製造業で設計業務に従事されている方などに対して、新しいモノづくりの視点や働き方のヒントを提示できればと考えています。
というわけで、連載第1回では、本連載のキーとなる「デジタルファブリケーション技術」について取り上げたいと思います。皆さまに少しでも有益な情報を提供できるよう頑張りますので、どうぞよろしくお願いします。
「デジタルファブリケーション」とは、CADデータやCGデータなどのデジタルデータを基に、モノを作る技術のことです。3Dスキャナや3D CADなどを使用して、自分のアイデアをデジタルデータ化し、3Dプリンタやレーザーカッターなどのデジタル工作機械でそれを読み込み、製造/組み立て(ファブリケーション)を行います。
デジタルファブリケーションを取り巻く機器には、3Dプリンタや3Dスキャナ、レーザーカッターの他にも、CNC加工機、ロボットアーム、小型マイコンボード、センサー、ペーパーカッター、デジタル刺しゅうミシンなどがあります。デジタルファブリケーション機器の中には、1980年代から存在しているものもありますが、最近では小型化が進んだことで、机の上に置けるサイズとなり、オフィスの中で手軽にモノを作り(創り)出すことができる「デスクトップファブリケーション」が可能になりました。
これまでモノを作る場所といえば基本的に「工場」でしたが、オフィスの中でモノを試作し、デザインレビューをはじめとする設計検討が容易に行えるようになりました。中には「デスクトップファブリケーションは個人の趣味レベルの話で、『仕事』として使えるものではない」と思っている設計者の方もいると思いますが、最近の小型3Dプリンタや切削加工機は、安価でありつつ加工品質も格段に良くなってきています。本連載では、デスクトップファブリケーション技術を活用した設計検討についても紹介していくつもりです。
デスクトップファブリケーションと同時に、個人が自宅のガレージや机の上でモノづくりを行う「パーソナルパブリケーション」という言葉も生まれました。机の上に置けるサイズのデジタル工作機械といっても、個人ではなかなか購入できない価格のものもあります。そうした人たちに広く門を開き、それらを一般利用できる場として「FabLab(ファブラボ)」と呼ばれる施設が世界各地、日本国内に複数誕生し、地域に根付いた活動をしています。ファブラボの「ファブ(Fab)」とは、「Fabrication(モノづくり)」と「Fabulous(素晴らしい)」の2つの意味を組み合わせた造語で、ファブラボとは、デジタルからアナログまでの多様な工作機械を備えた、実験的な市民工房のネットワークとして位置付けられています。
ファブラボ以外にも、デジタルファブリケーション機器が利用できる施設は全国に多くあります。例えば、各都道府県に「○○県試験場」「○○県工業技術センター」「○○県産業技術センター」などと呼ばれる公設試験研究機関(公設試)があり、ハイエンドな3Dプリンタや3Dスキャナ、工作機械などが整備されています。これらを利用して、設計段階での試作やリバースエンジニアリング、検査などが可能です。本連載では、このような機器貸出施設を利用する際や作業依頼する際のポイントについても取り上げていきます。
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