成熟したCAD業界に変化をもたらそうとしているAIの波。2024年を振り返ってみてもCADベンダー各社はAI活用に関するメッセージを積極的に発信しており、2025年はさらにその傾向が強まることが予想されます。2025年メカ設計フォーラム新年展望では、CADツールに実装されつつあるAI機能の現状をあらためて整理し、今後の方向性やAI時代の設計者の在り方について考察します。
設計者の皆さんが普段使用している商用CADツールを見てみると、ここ数年、ベンダー問わず機能やパフォーマンス、使い勝手がかなり洗練され、良いか悪いかは別として、どれを選んでも大差のない状況に落ち着いているように思えます。厳密には、対象とする設計領域や規模、価格帯などによって個々で違いがあるわけですが、大局的に見るとおおむねそのような傾向にあるといえます。
こうした状況に“変化”をもたらそうとしているのが、AI(人工知能)/生成AIの存在です。2024年を振り返ってみても、CADベンダー各社はAIを活用した機能強化を推進しており、最新バージョンへの実装や、将来バージョンに向けたロードマップなどを矢継ぎ早に発表しています。今後、こうしたAI機能の実装やその使い勝手などが、ある種横並び状態にあるCADツールに変化をもたらすのではないかと期待しています。
もちろん、AIを活用した機能がこれまで全くなかったわけではありませんが、10年くらい前にジェネレーティブデザインが大きな注目を集めたときの盛り上がりと同じくらい、CADベンダー各社はAIに対するメッセージを強めているように感じますし、2025年もそうした傾向が続くと予想されます。
そこで本稿では、CADツールに実装されつつあるAI機能の現状をあらためて整理し、今後の方向性やAI時代の設計者の在り方について考察してみたいと思います。
そもそも設計開発に従事されているエンジニアの皆さんは、AIに対してどのような考えを持っているのでしょうか。まずは、アイティメディアが運営する製造業メディア「MONOist」および「TechFactory」が2024年9月に実施した「『設計・解析業務におけるAI活用』に関する実態調査 2024」(回答者数:405人)の結果レポートを基に見ていきましょう。
まず、“設計/解析業務におけるAI技術の活用に関する関心度合い”についての設問では、「やや興味がある」が40.7%、「大変興味がある」が37.6%と、合計で8割弱の回答者がAI活用に対して関心を示していることが分かりました。ちなみに、2023年に実施した同様の調査でもほぼ同じ結果でしたので、設計/解析業務におけるAI技術の活用は、2022年から始まったとされる第4次AIブームによる一過性のものではなく、“取り組むべきもの”として現場の皆さんが捉えているのだと推察できます。
では、設計開発現場の皆さんは、どのようなシーンでAI技術を活用したいと考えているのでしょうか。同調査の“AI活用の方向性/期待”についての設問では、「設計作業の支援/アシスト」が最多回答となり、次点で「設計ミスの軽減」や「解析時間の短縮」が並ぶ結果となりました。その他、自動化や効率化に関連する項目も目立っていました。
少し意外だったのが、形状生成や最適化、デザイン/設計アイデアの導出のような人間の創造性を高める/拡張するような活用よりも、効率化や生産性向上、QCD(品質、コスト、納期)の改善につながるような活用への期待の方が大きかったことです。ビジネス領域における生成AIの活用もここ数年で急速に浸透しつつあるため、デザインや形状を自動生成する使い方への期待はそれなりにあるように思っていました。
ただ、慢性的な人手不足に陥り、日々忙しくしている設計開発現場の実情を踏まえれば、煩雑な繰り返し作業の効率化/自動化や、1クリックでもムダな操作を減らせるアシスト機能といった、“オペレーションにひも付く部分でのAI活用”の方が、現段階では強く望まれているのかもしれません。
また、今回の新年展望はCADツールとAIの関係性に主眼を置いていますが、CAEも同様で、解析時間の短縮にAIを活用する動きが活発化しています。具体的には、機械学習(ML)を用いてシミュレーションの入出力を学習し、構築したサロゲートモデル(CAE代理モデル)によって、高速に解析結果を“予測”するアプローチです。現場での定着が難しいとされる設計者CAEの取り組みを推進する役割を担ってくれると期待しています。
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