産業技術総合研究所は、マウスES細胞から、試験管内で胃の組織を丸ごと分化させる培養技術を開発したと発表した。この胃組織は、胃粘液や消化酵素を分泌し、ヒスタミン刺激に応答して胃酸も分泌した。
産業技術総合研究所(産総研)は2015年8月4日、マウスES細胞から、試験管内で胃の組織を丸ごと分化させる培養技術を開発したと発表した。産総研創薬基盤研究部門の栗崎晃上級主任研究員、二宮直登研究員、浅島誠産総研名誉フェローが、筑波大学大学院の王碧昭教授、埼玉医科大学の駒崎伸二准教授らと行ったもので、7月20日に「Nature Cell Biology」オンライン版に掲載された。
近年、ES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞を利用して、失われた組織を再生させる再生医療が注目を集めている。これらの多能性幹細胞を利用して、すい臓、肝臓、腸などの組織へと分化させる方法の開発が進められているが、胃の組織へと分化させる技術はほとんど開発されていなかった。
今回、同研究グループは、幹細胞から胃の組織細胞を試験管内で分化させる培養方法を考案し、消化管組織の中で胃の組織への分化を決定づける分化方法を開発した。2014年末には、胃の十二指腸に近い幽門前庭部の作製方法が報告されているが、今回の技術では、より上部の胃体部を含む胃全体を作製した。
研究ではまず、マウスES細胞から胚葉体という細胞塊を試験管内で形成させ(胚様体形成法)、その後、ShhとDKK1という2種類の成長因子を加えて培養し、胃組織の元となる胎児の胃原基を作り出した。この胃原基組織をマトリゲルという特殊なゲル内に移植し、3次元(3D)培養を利用して培養を続けたところ、立体的な胃組織となったという。また、このES細胞から作製した胃組織でも、正常胃組織と類似した胃粘液や消化酵素を分泌する胃上皮組織が確認され、ヒスタミン刺激に応答して胃酸も分泌した。
さらに、メネトリエ病(胃巨大皺壁症)と似た状態を作り出す遺伝子のTGFαをES細胞由来の胃組織で働かせると、胃粘膜が異常に増殖した前がん状態を引き起こすことが確認された。
今回、試験管内で作製された胃組織により、胃の治療薬研究や病態研究への貢献が期待されるという。今後は、ヒト幹細胞を胃組織へと分化させるため、分化条件や培養条件の最適化を進め、将来的にはヒトの胃組織を用いた病態モデルや治療薬開発のための試験管内モデルとしての応用を目指すとしている。
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