生体透過性の高い近赤外レーザーで熱と活性酸素種を発生する有機色素と、カーボンナノホーンから成る分子複合体(ナノモジュレーター)を作製。この分子複合体を用いて、生きた細胞の機能を操作できる光制御技術を開発した。
産業技術総合研究所は2014年10月27日、フランス国立科学研究センター、ストラスブール大学、東北大学と共同で、新たに作製した分子複合体「ナノモジュレーター」を用いて、生きた細胞の機能を操作できる光制御技術を開発したと発表した。
今回開発された技術は、生体透過性の高い近赤外レーザーを用いるもので、従来は不可能だった生体深部の細胞機能制御が可能になるという。また、ウイルスを用いた遺伝子操作を必要としないため、ワイヤレス・ウイルスフリーで脳深部の特定領域の細胞を活性化させるなど、光を用いた細胞機能制御技術の性能を向上できる。
この細胞機能制御は、近赤外レーザーで熱・活性酸素種を発生する有機色素と、カーボンナノホーン(CNH)から成る分子複合体(ナノモジュレーター)を用いることで実現した。
CNH表面に近赤外蛍光色素(IRDye800CW)を結合させたナノモジュレーターは、水溶液中に分散させ、生体透過性の高い近赤外レーザー光を照射すると、熱と活性酸素種を効果的に発生する。この熱・活性酸素種発生システムにより、生きた細胞へのカルシウムイオン流入や細胞膜に流れる電流を遠隔制御でき、生体深部の細胞機能制御が可能になるという。
今後産総研では、同技術を応用して、単一の細胞レベルでの細胞機能解析技術を構築していく予定。また、パーキンソン病やアルツハイマー病などの脳疾患について、分子・細胞レベルで病態メカニズムを解明し、新たな治療法を開発するためのツールとして期待されるという。
研究の詳細は、2014年10月25日(日本時間)公開のドイツのオンライン化学誌『Angewandte Chemie International Edition』に掲載された。
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