東京大学は、カルシウム放出チャネルの1型リアノジン受容体が、吸入麻酔薬の標的分子として全身麻酔の導入に関与していることを明らかにした。吸入麻酔薬が生体内でどのように作用し、全身麻酔を誘導するかを解明する重要な知見として期待される。
東京大学は2025年6月4日、カルシウム放出チャネルの1型リアノジン受容体(RyR1)が、吸入麻酔薬の標的分子として全身麻酔の導入に関与していることを発表した。筑波大学、順天堂大学、日本大学との共同研究によるもので、より優れた麻酔薬や投与方法への発展が期待される。
研究ではまず、RyR1や2型リアノジン受容体(RyR2)などを発現誘導できる細胞株を使用し、小胞体からカルシウム放出を検出する実験系を構築。イソフルランやクロロホルムなどの吸入麻酔薬への反応性を測定したところ、いずれもRyR1を活性化することが分かった。特にイソフルランは、RyR1を選択的に活性化していた。
次に、イソフルランに反応するRyR1と反応しないRyR2をさまざまな割合で融合させ、30種類以上のキメラ受容体を作製した。そのうち、ウサギ由来RyR1タンパク質の4000番目のアミノ酸残基メチオニンが、イソフルランの反応性に重要だと分かった。中でも、メチオニンをフェニルアラニンに置換した際に反応性が減弱していることから、分子動力学的シミュレーションによりイソフルランの結合部位を推定した。
イソフルランへの反応性を失ったRyR1を発現するノックインマウスでは、正常なマウスよりもイソフルランに対する感受性が部分的に低下し、麻酔にかかりづらくなった。また、推定したイソフルランの結合部位に作用する新規化合物を特定してマウスに投与したところ、脳波の変化を伴う鎮静作用に近い効果が見られ、イソフルランに対する感受性が高まった。これらの結果から、RyR1がイソフルランの標的分子として、マウスの麻酔作用に関与することが示唆された。
今回の成果は、吸入麻酔薬の分子メカニズムの一端を明らかにするものとなる。生体内でどのように作用し、全身麻酔を誘導するかを解明する重要な知見になるとしている。
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