産業技術総合研究所(産総研)は、「nano tech 2013」で、自動車などの窓ガラスを鏡の状態と透明な状態の間で切り替えられるガスクロミック方式調光ミラーシートの実演デモを披露した。鏡からガラスへの切り替えが瞬時に完了する様子を映像で紹介する。
産業技術総合研究所(産総研)が2012年1月23日に発表した、自動車などの窓ガラスを鏡の状態と透明な状態の間で切り替えられるガスクロミック方式の調光ミラーシート(関連記事)。その試作品を使ったデモンストレーションが、「nano tech 2013(第12回 国際ナノテクノロジー総合展・技術会議)」(2013年1月30日〜2月1日、東京ビッグサイト)の産総研ブースで披露された。
産総研が開発したガスクロミック方式の調光ミラーシートは、エレクトロクロミック方式の調光ガラスの20倍の切り替え速度を実現。加えて、2枚のガラスを組み合わせる必要があったガスクロミック方式調光ガラスの課題も克服したとされている。
デモでは、調光ミラーシートを貼り付けた10cm角のガラスを使って、鏡の状態から透明な状態、透明な状態から鏡の状態への切り替えを実演した。以下の映像は、デモの様子である。
映像にある通り、鏡の状態から透明な状態への切り替えは瞬時に完了する。ただし、透明な状態から鏡の状態への切り替えは徐々に進むため、数十秒以上かかるというのが現状のようだ。
この他にも、鏡状態と透明状態における可視光の透過率も課題になっている。産総研が2012年9月に発表したマグネシウム-イットリウム系合金を使えば、鏡状態の透過率が1%程度と、肉眼でも鏡のように見える。透明状態の透過率も65%と高いため、ガラスに切り替わったと認識できる。しかし、マグネシウム-イットリウム系合金は、鏡状態から透明状態への切り替え速度は秒単位と速いものの、透明な状態から鏡の状態への切り替えは分単位とかなり遅い。
ガスクロミック方式調光ガラス用の材料として一般的なマグネシウム-ニッケル系合金の場合、透明な状態から鏡の状態への切り替え速度がマグネシウム-イットリウム系合よりも速い。しかし、可視光の透過率は、鏡状態で5%程度あり、調光ガラスの先をある程度見通せてしまう。透明状態も透過率が40%と低い上に、マグネシウム-イットリウム系合金と比べて少し黄色みがかっている。
調光ミラーシートを研究開発している、産総研 サステナブルマテリアル研究部門 環境応答機能薄膜研究グループの研究グループ長を務める吉村和記氏は、「今回の開発成果によって、自動車の窓ガラスのように合わせガラスを使えない用途にも、ガスクロミック方式の調光ガラスを導入できる見通しが立った。今後は、透明な状態から鏡の状態への切り替え速度や、可視光の透過率といった課題を解決できるように研究を進めていきたい」と述べている。
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