実装分野の最新技術を分かりやすく紹介する前田真一氏の連載「最新実装技術あれこれ塾」。第33回は信号のエネルギーの一部が失われる損失の影響について取り上げる。
本連載は「エレクトロニクス実装技術」2013年11月号の記事を転載しています。
一般のFR-4基板の配線では、1GHz程度の速度の信号では損失はそれほど大きくはないようにみえます(図1)。
しかし、実際には1GHz以下の信号でも損失の影響は出ますので、損失の影響を考慮して回路を検討する必要があります。
ここまで、損失の定義に使っていた周波数は、正弦波の周波数です。
正弦波の周波数とデジタル回路で使う方形波の周波数は異なります(図2)。
周波数fの方形波は周波数f、3f、5f、7f、9f……の正弦波が合成されたものです。
周波数fの方形波は
=sin(f)+ 1/3 sin(3f) + 1/5 sin(5f)+
+ ・・・+ 1/n sin(nf) +・・・
で表されます。
図3は周波数1GHzの方形波と、それを各周波数の正弦波に分解した時の正弦波の振幅を表しています。
このように、たとえ1GHzの信号でも、方形波は3GHz、5GHz、7GHz、9GHz、11GHzなど、非常に高い周波数の成分を持っています。この高い周波数の成分は損失の大きな影響を受けます。
方形波の高い周波数成分は方形波の立ち上がり、立ち下がり速度に関係しています。
図4に同じ1GHzの方形波ですが、図3より立ち上がり、立ち下がりが遅い方形波と、その正弦波成分を示します。
図4の方形波は、図3の方形波に比べ、高い周波数の正弦波が急速に小さくなっていることが分かります。
図3のように立ち上がり、立ち下がりが早い方形波が損失のある配線を伝播(ぱ)すると、レシーバ波形は図4のように立ち上がり、立ち下がりの遅い波形になってしまいます。これは、高い周波数になるほど本質が大きくなり、方形波の高い周波数成分が大きく減衰してしまうからです。
また、損失は長さにも比例します。配線が長くなるほど、減衰が大きく、波形が鈍ってきます。図5にFR-4基板の配線に0.5GHzで立ち上がり、立ち下がりの早い信号を印加した場合、15cmと30cm、60cmでの波形を示します。
立ち上がり、立ち下がりが非常に早いため、ドライバの出力波形は理想的な方形波になっています。しかし、15cm、30cm、60cmと距離が遠くなるにしたがって立ち上がり、立ち下がりが遅くなり、波形が鈍ってくるのが分かります。特に、60cmの長さでは、信号が立ち上がりきらずに、振幅が下がり気味になっています。
図6は立ち上がり、立ち下がりが遅い信号の場合です。図5と同じような傾向になっていますが、ドライバ信号が遅いため、損失の影響が小さくなっています。
同様に、図7は図5の立ち上がり、立ち下がりをもつ、2.5GHzの信号の場合です。
図5と比べると、ドライバ出力は非常に高速であるため、周波数が5倍になっても、波形に変化はありません。しかし、早くも15cmでは損失のため、立ち上がり、立ち下がりが遅くなり、信号が完全にハイ/ローに達していません。図6は同じ15cmの位置での0.5GHzと2.5GHzの波形を比較したものです。0.5GHzも2.5GHzも立ち上がり、立ち下がりはまったく同じですが、2.5GHzでは信号が早いため、信号が安定する前に次の信号変化が始まってしまっています。配線が30cmになると損失がさらに大きくなり、信号の振幅がさらに小さくなっています。
配線が60cmになると、損失がさらに大きくなり、Eyeが閉じてしまって、もはやEyeと見えない状態です。
図8は立ち上がり、立ち下がりが比較的遅い信号で、0.5GHzと2.5GHzの信号を比較した図です
立ち上がり、立ち下りが同じであれば、信号の周波数にかかわりなく、損失の影響は同じになります。
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