パーソナルヘルスケア向けのサービスでは、“誰の何のための測定か”によって、求められる内容も技術も変わってくる。ビジネス化するには、ターゲットをしっかりと絞ることが1つの方法だ。例えば、オムロン ヘルスケアは生活習慣病の経過観察あるいは予防に焦点を当てて、ネットワークを利用した健康管理サービス「Wellness Link(ウェルネスリンク)」を展開している。2010年11月に開始したサービスで、血圧計や体組成計、歩数計、睡眠計などのデータをネットワーク上で管理できるものである。ウェルネスリンクに対応した機器を使えば、データ送信も簡単に行える。
志賀氏は、「技術の革新とビジネスモデルの確立を掛け合わせなければ、価値の創造にはつながらない」と述べる。機器メーカーは、小型化や低消費電力化といった技術を駆使してウェアラブル機器を開発している。診断や治療に利用できそうな、ヘルスケアよりも医療用途に近いウェアラブル機器も開発が進んでいて、実用化の一歩手前まできている技術もある(参考:「開発進む医療用ウェアラブル機器、FDAの承認も」)。技術革新は進んでいるが、現状はそれを使ったサービスが伸びていない。志賀氏は、「よかれと思ってさまざまな技術を開発するのではなく、最も重要な“何を測るのか”を念頭に置き、ビジネスモデルの確立にも努めなければいけない」と述べている。
ヘルスケア向けのウェアラブル機器は、さまざまな製品が投入されている。玉石混交の感は否めないが、志賀氏は個人的には、「病気の診断として使うのであれば、今後は淘汰(とうた)されていく製品も出てくる」と見ている。同氏は例として、指で測る血圧計と耳で測る体温計を挙げた。「指で測るのは簡単だが、数値の信頼性の問題で“これは血圧計ではない”と医学界から否定された。耳式の体温計も欧州などでは見かけるが、日本ではあまり見かけなくなっている。体温は腋下(えきか)で計測するのがゴールドスタンダードであり、こちらも指式の血圧計同様、数値の信頼性が疑問視されている。これら2つの製品は市場から消えつつある」(志賀氏)。
血糖値を計測したり、投薬を管理したりといった、病気の診断や治療に使用するウェアラブル機器も数年前から開発が進んでいる。
2010年には、STMicroelectronicsとスイスのSensimedが、緑内障の診断用にMEMSセンサーで眼圧を計測するコンタクトレンズを製品化すると発表した。Googleは2014年1月、涙で血糖値を計測するコンタクトレンズを開発中だと発表して話題になっている(関連記事)。
中には、FDA(米国食品医薬品局)の承認を得た技術もある。Proteus Digital Healthが開発した、投薬管理向けの“飲み込めるセンサー”だ。錠剤と一緒に飲み込むと、患者に張りつけたばんそうこうサイズの計測ユニットに、信号を送る。これによって薬を飲んだ時間や薬の種類などを記録できる仕組みだ。日本では大塚製薬が、技術を用いた医薬品の商業化に向けて独占的なライセンス権を取得すると2012年に発表している。
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