次世代パワー半導体として期待されるSiCデバイス。電気自動車(EV)のインバータにSiCデバイスを採用するためには、コスト低減が必須だ。その鍵を握るのが、量産が始まっている6インチ(150mm)SiCウェーハである。デンソーの試算によれば、高品質の6インチウェーハが安定供給されれば、SiCデバイスのコストをSiデバイスの1.2倍に抑えられるという。
次世代パワー半導体として期待されるSiC(シリコンカーバイド)デバイス。次世代とは言いながら、ダイオードのSiC-SBD(ショットキーバリアダイオード)については、サーバ用電源、エアコンのインバータ、太陽光発電システムのパワーコンディショナ、そして電気自動車(EV)用急速充電器などに既に採用されている(関連記事)。一方、シリコンベースのIGBT(Si-IGBT)に替わるSiC-MOSFETも、ロームや三菱電機などの半導体メーカーが量産を始めており、量産製品への採用は間近なところまで迫っている。
しかしながら、SiCデバイスの主な用途として常に取り上げられ続けてきた、EVやハイブリッド車(HEV)のインバータやDC-DCコンバータについては、量産採用時期ははっきりとしていない。トヨタ自動車とデンソーは、共同でSiCウェーハやSiCデバイスを開発しており、日産自動車やホンダもSiCデバイスを搭載したEVやHEVを試作するなど、自動車業界はSiCデバイスに大きな期待を抱いている。しかし、いまだに量産車両にSiCデバイスを搭載する時期をはっきりさせていない。その最大の理由は、SiCデバイスのコストに他ならない。
では、SiCデバイスのコストがどこまで下がれば、量産車両に採用されるのだろうか。その目安について、2012年7月27日に東京都内で開催された討論会「SiCパワーデバイスはいよいよ次世代自動車へ:パワエレ開発の最前線を覗く」(SiC及び関連ワイドギャップ半導体研究会主催)において、デンソー基礎研究所の機能材料研究部でSiCデバイス研究室長を務める鶴田和弘氏が示した。
鶴田氏が、コスト比較の対象としたのが、現在EVやHEVのインバータに用いられているSi-IGBTなどのシリコン(Si)ベースの個別半導体である。これらの高電圧系のSiデバイスは、12インチ(300mm)ウェーハでの生産が主流になったデジタルCMOSデバイスとは異なり、8インチ(200mm)以下のサイズのSiウェーハを使って生産されている。この8インチSiウェーハを使って、12mm角のSiデバイスを良品率(歩留まり)80%で生産したと仮定すると、150個のチップを得られる。
このSiデバイスのチップ1個当たりのコストを1とした場合、SiCデバイスのコストはどれほどのものになるのだろうか。
SiCデバイスの基板となるSiCウェーハのうち、現在入手がある程度容易なのは、サイズが4インチ(100mm)のものだ。この4インチSiCウェーハの価格は、8インチSiウェーハの約2〜3倍である。しかし、先ほどのSiウェーハで製造したSiデバイスと同等の定格電圧や電流容量を持つSiCデバイスのサイズは7mm角と小さい。このため、4インチSiCウェーハからでも、良品率がSiデバイスと同じ80%であれば100個のチップを得られる。とはいえ、このSiCデバイスのチップ1個当たりのコストは、Siデバイスの3〜4.5倍になってしまうのだ。
同討論会で講演を行った、トヨタ自動車で第3電子開発部主査を務める川井文彰氏は、「SiCデバイスの車載利用に向けて、Siデバイスに対してコストと性能で打ち勝つとともに、品質は同等以上である必要がある」と述べている。3〜4.5倍というチップコストは、Siデバイスを上回る性能によるメリットを勘案しても高すぎるのである。
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