国土地理院は、日本全国1240箇所にある「電子基準点」で観測されたGPSデータのリアルタイム解析を行い、海溝型巨大地震発生時に生じる地殻変動量を即時に求めるシステムの試験運用を開始した。
四方を海に囲まれた日本。その周辺では、4つのプレートがぶつかり合っており、地震とそれに伴う津波のリスクは長年、日本に住む人々を悩ませ続けている。ここで多くを語るつもりはないが、2011年3月11日に発生した東日本大震災に伴う大津波は、われわれの想像をはるかに超えるものであり、自然の脅威に人智がいかに及ばないかを痛感した出来事であった。この大きな悲しみを教訓に、これからは想定外を想定し、根拠のない過信をなくす危機管理・対策が強く求められる。
東日本大震災から1年が経過した今、行政・企業・団体問わず、さまざまな復興支援や新たな危機管理・対策への取り組みが具体的な形として見え始めている。
その1つが津波観測への取り組みだ。例えば、民間気象情報会社のウェザーニューズは、津波を観測・捕捉する「TSUNAMIレーダー」を開発し、東北から北関東の太平洋沿岸部9箇所に設置した(関連記事<1>)。また、防災科学技術研究所は、全長5000kmを超える光海底ケーブルと合計154台の海底観測ユニットからなる「日本海溝海底地震津波観測網」と呼ばれる海底地震・津波観測ネットワークの構築を進めている(関連記事<2>)。いずれも、津波の発生を早く捉えることで、被害の軽減や避難行動などの防災対策に役立てることが一番の目的である。
しかし、TSUNAMIレーダーの場合は、全国展開の予定はあるもののまだ設置数が少なく、日本海溝海底地震津波観測網においては、かなり大規模な敷設作業が必要となる。南海トラフ巨大地震による津波被害の予測を内閣府が発表したが、何においても、早期実用・早期展開は欠かせないだろう。既存インフラや装置などを活用した仕組みは考えられないだろうか。
日本全国1240箇所に、「電子基準点」と呼ばれる観測点が設置されているのをご存じだろうか。
高さ5mほどのステンレス製の柱で、その外見は何かのモニュメントか近代アート、あるいはおしゃれな街灯にも見えなくはない。しかし、よく観察してみると、柱のてっぺんに丸いカバー状のものがある。これは、GPS衛星からの電波を受信するアンテナ部である。そして、柱の内部には、受信機と通信用機器などが格納されているのだ(注1)。
これは、高密度・高精度な測量網の構築と広域の地殻変動の監視を目的として、国土地理院が運営している「GEONET(GPS Earth Observation Network System:GPS連続観測システム)」の観測点である。日本全国に散らばる電子基準点で観測されたGPSデータは、リアルタイムで国土地理院の中央局に送信される。そして、毎日、電子基準点間の位置関係をmm(ミリメートル)精度で求め、地殻変動の監視に用いているのだ。また、こうした観測データや解析結果値は、インターネットを通じて公開されており、GPS測量の基準点として利用されている他、配信事業者を通じてさまざまな位置情報サービスなどで活用されている。
この電子基準点で観測されたGPSデータをリアルタイムに解析し、海溝型巨大地震発生時に生じる地殻変動量を即時に求めるシステムを、国土地理院と東北大学 大学院理学研究科地震・噴火予知研究観測センターの研究グループが共同で開発しようとしている。東日本大震災の経験を踏まえ、海溝型巨大地震に伴う大津波の予測を支援するのが目的である。また、マグニチュード8以上の地震が発生した際、気象庁の地震計のデータとは別に、地震規模・場所を推定できるシステムとしての役割も期待されている。
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