原子力発電所をめぐる日米欧企業連合 vs. 韓国連合の戦い知財コンサルタントが教える業界事情(3)(2/2 ページ)

» 2011年02月23日 13時00分 公開
[野崎篤志/ランドンIP,@IT MONOist]
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日本に次ぐ世界第2位の原子力関連出願大国・中国

 図3に原子力発電関連特許(中国では実用新案も含めます)のワールドワイドマップを示しました。各国の件数推移と今回の対象企業別の累積件数分布を示しています。

 原子力発電関連特許では日本の出願規模が最も大きかったのですが、ここ10年間で減少の一途をたどっています。米国・欧州では顕著な増加・減少傾向は見られず、出願件数は比較的落ち着いています。

 原発を今後急激に増加させていく予定の新興国を見ると、中国を除いてそれほど大きな件数の増減は見られません。中国だけでは2006年ごろから急激に件数が増加し始め、直近2010年では313件となっています。これは米国・欧州を上回る件数であり、日本に次いで2位の原子力関連特許出願規模を誇っています。

 企業別に各国への出願状況を見てみると、アレヴァ(および後に事業統合するシーメンス)は日米欧だけにとどまらず、ロシア・南アフリカ・中国などで存在感を示していることが分かります。日本企業の中では三菱重工業がアレヴァ同様、新興国への出願も行っています。

図3 原子力発電関連特許ワールドワイドマップ(各国推移・企業別累積件数) 図3 原子力発電関連特許ワールドワイドマップ(各国推移・企業別累積件数)

新興国において存在感のあるアレヴァ

 次に企業連合別に各国での4連合別シェアを図4に示しました。

 上述したとおり、ロシア・南アフリカ・インド・中国では、三菱重工業・アレヴァ連合が出願件数面では優勢に立っています。図3からも読み取れるように、ロシアへは事業統合前のシーメンスが積極的に出願し、南アフリカへはアレヴァの前身であるFramatomeで集中的に出願を行っています。

 先進国市場への切り込みが難しい韓国企業連合ですが、特許出願面からも日本・米国へはほとんど特許出願を行っていないことが分かります。件数シェアとして一定の存在感を示しているのは中国・ロシアなど一部に限られています。

図4 原子力発電関連特許ワールドワイドマップ(4連合別シェア) 図4 原子力発電関連特許ワールドワイドマップ(4連合別シェア)

政府による積極的な取り組みが必要

 特許出願面だけ見ると日米欧の各企業連合が原発新規導入国に対し、(図1に掲載した地域・国のすべてについて分析を行ったわけではありませんが)インフラ獲得競争を非常に優位に進められそうだと考えられます。

 しかし、実際のところ2009年アラブ首長国連邦(UAE)の原子力発電事業は韓国企業連合が受注、ベトナムの原発第1期工事はロシア・ロスアトムが受注、と日米欧企業連合は苦戦を強いられています。

図5 2国間原子力協定締結状況(平成22年10月時点) 図5 2国間原子力協定締結状況(平成22年10月時点)
出所:パッケージ型インフラ海外展開関係大臣会合 第2回配布資料より

 図5に2国間原子力協定締結状況を示しました。こちらの表を見ると、日本は原子力発電の新規導入国に対して1カ国も発行している原子力協定がありません。一方、米国はインドや東南アジア諸国ときっちりと原子力協定を締結しています。

 今回取り上げた原子力発電の場合、各国の政治とも密接に関連してきます。当然、技術力とその裏付けとなる知財力が前提にあることはいうまでもありませんが、技術力・知財力だけがあってもインフラ獲得競争に勝つことはできません。

 日本企業が長年培ってきた原子力技術を世界各国へ展開し生かすためにも、まずは政府が原子力協定締結を積極的に推進することを望みます。

備考

 本稿では、下記の分析条件で各社の動向を考察しました。特許データベースの使い方が分かれば、下記の条件検索パラメータを活用してご自身でも確認できます。調査方法は連載記事「自社事業を強化する! 知財マネジメントの基礎知識」で解説していますので、こちらも参照ください。

項目 分類 内容
データベース 日本・米国 Patent Integration
EP DEPATIS
ブラジル・ロシア esp@cenet
インド インド特許庁データベースIPRIS
南アフリカ WIPO Patent Scope
中国 Soopat
分析条件 下記のIPC(国際特許分類)を含む特許(中国は実用新案を含む)
G21C 原子炉
G21D 原子力プラント
企業名について アレヴァ AREVA、Framatomeを含むが、シーメンスは含めていない。ただし「三菱・アレヴァ連合」にはシーメンスも含めた


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筆者紹介

ランドンIP合同会社 野崎篤志(のざき あつし)

1977年新潟県生まれ。
2002年慶応義塾大学院 理工学研究科 総合デザイン工学専攻修了(工学修士)。
2010年金沢工業大学院 工学研究科 ビジネスアーキテクト専攻修了(経営情報修士)。
日本技術貿易株式会社・IP総研を経て、現在ランドンIP合同会社シニアディレクター(日本事業統括部長)。

知的財産権のリサーチ・コンサルティングやセミナー業務に従事する傍ら、Webサイトe-Patent Map.nete-Patent Search.netやメールマガジン「特許電子図書館を使った特許検索のコツ」を運営・発行している。
著書に『EXCELを用いたパテントマップ作成・活用ノウハウ』(技術情報協会)、『知的財産戦略教本』(部分執筆、R&Dプランニング)、『欧州特許の調べ方』(編著、情報科学技術協会)、『経営戦略の三位一体を実現するための特許情報分析とパテントマップ作成入門』(発明協会)がある。


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