抜き勾配
射出成形では、金型に注入した樹脂や金属が固化した後に、成形品として金型から取り出す必要がある。抜き勾配とは、金型から成形品を取り出しやすくするために、製品形状にあらかじめ設けておく“勾配”のことである。「ドラフト(Draft)」とも呼ばれる。一般的には、1度前後の勾配を付けるとされるが、シボが入る場合は、2度以上とされる。仕様で定める機能や外観を損なわない限りは、なるべく抜き勾配は大きく取っておくことが望ましい。
成形材料は冷却されることで収縮するため、金型の可動側にある「コア」という型に張り付き、固定側の金型である「キャビ」からはわずかに浮き上がる。そのような状態から離形しやすくするために抜き勾配を設ける。
当然、抜きづらい条件であれば角度は大きくなり、抜けやすい条件であれば角度は小さくなる。設計形状、材料特性、金型の構造、シボの指定、成形条件など、さまざまな条件が影響する。もし抜き勾配の指定が小さ過ぎる場合、金型に大きな負荷が掛かることで傷みやすくなったり、傷やクラックなど成形不良、寸法不良の原因にもなったりする。
条件によっては抜き勾配を設けなくても、あるいは「アンダーカット」と呼ばれる引っ掛かりのある形状があったとしても、離形できる場合もあるが、「無理抜き」の適用やスライド機構など、金型側の仕掛けが増えるため金型製作の費用が増加する。
製図やモデリングにおいては、設計形状そのものには勾配を一切付けず、注記で抜き勾配の数値を指示する場合もある。
「テーパ」は先細った形状を示し、勾配と同様に斜面のある形状であるが、勾配とは区別して表現し、日本工業規格(JIS)においても区別して定義されている。製図において、勾配は斜面の片側に対して角度を定義するのに対し、テーパは斜面における広がり、すなわち投影図における両側を合わせた角度を定義する。金型に勾配を施す際に用いる工具を「テーパエンドミル」と呼ぶこともあり、さらに用語が混同しやすい。テーパと勾配の指示ミスの他、勾配の起点指示を誤っても加工寸法が大きく変わってしまうため、寸法指示の際には注意が必要である。
関連記事
- 「勾配」と「テーパ」の違い、ちゃんと分かってる?
設計する製品には角度を付けなければ、金型からうまく抜けない。そんな角度の表現にもいろいろあるけれど、その違い、分かっていますか? - 肉厚と抜き勾配を押さえるべし!
成型部品設計と3次元モデリングのツボをピンポイントで押さえるべし! 射出成型・金型設計のプロフェッショナルが解説する。 - 型構造の知識とシェルコマンドを極めるべし!
肉厚均一でキャビティにもコアにも抜き勾配のある薄肉形状を作成するには、シェルコマンドを使う。重要なツボを押さえれば効率よくモデリングできる - パーティングラインを極めるべし!
キャビティとコアの分割面が「パーティングライン」(PL)。その条件により勾配付けの手順に工夫が必要となる。今回はモデリングのツボが満載だ - データムの測定はどうすればいいの?
幾何公差や寸法測定の課題に対する幾つかの取り組みを紹介していく本連載。第3回はいよいよデータムの測定について解説する。 - 設計自動化のベストバランス、自動と手動が8:2(前編)
自動化を過信せず、人だからこそ作り出せる付加価値を大事に! 今回は山形カシオの金型設計・製造の自動化の取り組みを徹底紹介する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.