姉川氏は基調講演の最後に日本の電源構成とゼロエミッションに言及しました。太陽光発電とV2Hのメリットに触れてはいますが、太陽光発電は天候の影響や夜間に発電できないことを考えると、「日本中の屋根に設置したとしても設備利用率としては苦しい」(姉川氏)とのことです。
「意味のある再エネは、浮体式の風力発電だけ」と姉川氏は言い切りました。日本と周辺で吹く風の強さを考えると洋上風力発電が有利だからです。洋上風力発電には浮かせておく浮体式と、海底に基礎をつくる着床式があります。着床式の風力発電では基礎を作れるのは深さ50mが限界であり、遠浅でない日本は岸から近いところでも急に深くなるため、風車を浮かせておかねばならないのだと姉川氏は説明します。
風力発電が日本で使われる電力の半分をまかなうには、2030年までに10GW、2050年には200GWという発電が必要なのだそうです。風力発電の普及でネックになるのはコストで、「今の半額にならないとペイしない」(姉川氏)というほどの大幅なコストダウンが課題となります。
姉川氏によれば、欧州では大型化によって風力発電のコストダウンを進めようとしています。より多く発電することでコストを回収するということなのでしょう。そのため、高さは100mから300mまで大きくなっており、「エッフェル塔をぶんぶん回すような風力発電機になる。欧州はそれを浮体式として日本に持ち込もうとしている」(姉川氏)。着床式であればこうした大型の風力発電機を設置することもできますが、日本は着床式の設置場所が限られますし、その大きさで浮かせることは難しいのではないかと姉川氏は見ています。
原発にもかかわってきた姉川氏から見ると、風力発電は大きさの割に発電量が少ないと感じられるのだそうです。三菱重工業や日立製作所、日本製鋼といった日系企業は2019年ごろに一斉に風力発電から撤退しましたが、「そうなったのには東京電力に責任がある。長らく風力発電を顧みてこなかった。燃料を海外から調達していることが課題になったのに、風力発電機まで海外から買ってくるのではいけない」(姉川氏)と振り返ります。
そうした過去も踏まえつつ、姉川氏は自動車産業に「ぜひ一緒に風力発電をやってほしい」と呼びかけました。風車の羽の向きを変える機構やモーター、増速ギアなど、自動車業界から見てなじみ深いものが多く使われています。実際に、過去にはSUBARU(スバル)は2000年に小型の風力発電機を発表し、自社の敷地内に設置しました。2003年からは日立製作所と風力発電機を共同開発しており、2012年にはスバルの風力発電システム事業を日立製作所が買収しています。
「日本の風力発電の事業規模は2050年に200GWで200兆円、コストを半減しても100兆円の規模がある。小型軽量化、耐久性や信頼性の向上など、自動車業界の強みは風力発電のコスト半減の達成に向けて大きく期待できる。少しEVより大きい部品になるが、現実味はある」と姉川氏は述べました。EVを蓄電池としてみたときに、定置型よりもはるかに安価であることを考えると、決して大げさな話ではないと感じられますよね。
「東京電力をはじめとする電力会社に遠慮はいらない。風車を作るだけでなく風力発電事業を運営する会社が出てきても、電力会社としては全く差し支えない。それくらいじゃないと、日本のゼロエミッションは達成できない。原発の復活は東京電力の方でやっていくので、ぜひ風力発電を一緒にやってほしい」(姉川氏)
偶然かもしれませんが、豊田通商は5月26日(姉川氏が基調講演で登壇した日です)、東京電力ホールディングスが保有するユーラスエナジーホールディングスの株式を取得し、完全子会社化すると発表しました。
ユーラスエナジーホールディングスは、国内の風力発電では最大手で、豊田通商は言うまでもなくトヨタグループの総合商社です。豊田通商が国内最大手の風力発電会社を傘下に収めたからと言って、トヨタグループで風力発電機の開発、生産が始まるとは限りません。でも、姉川氏の基調講演の内容と結び付けてみたくなりますよね。
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