「世界の先進工業国の製造業の浮き沈みを見てみると1つの流れがある」と中川氏は指摘する。この流れからみると日本だけが例外として「特別な存在」ではないことが分かるという。
日本の製造業は国内では過当競争で輸出競争力が低下し、大手製造業の海外生産が始まった。それに伴い、国内製造業・下請け産業が衰退。アジア途上国の外資系企業に市場を奪われている。そして、途上国企業も力をつけて価格競争では不利な状況となる。空洞化が現実となり、効果的な対策も見えない状況だ。さらに、少子高齢化・人口減少で国内市場の拡大は望めない。こうした厳しい現実を突き付けられたのが、特に電機産業である。一方で、自動車メーカーは生産のグローバル化で活路を見いだし、今では日本にとって最重要産業となっている。
電機産業の衰退については国内の過当競争により利益が低下し、また、製品のガラパゴス化により、海外で販売できず、デパート式総合電機は不況品を抱えて込んでいる。また、過去の成功体験により、経営者に厳しさが不足していることを挙げた。
さらに、欧米企業に対する情報機器戦略に後れを取り、韓国、中国、台湾も製造業により国の繁栄を目指していることから、これらの国との競争も厳しくなっている。中川氏は「日本人だけが優秀ではない。他人のマネをするということに関しては、あまり差はない。かしこい人は勘所が分かっている」として、マネをするだけの製造技術の差は縮まっていることを述べて、日本に蔓延(まんえん)しているモノづくりに関しての日本企業優位論が今後も維持できるか微妙であることを指摘した。
また、日本でのモノづくりの困難さについて、労賃が高いだけでなくインフラコストなど全般的に高価格であること、製造業以外の産業が非効率であること、規制に守られた産業が製造業の足を引っ張っていること、弱い産業を守ることは無駄が多いことなどを列挙した。
その中で、日本製造業の選択肢については今の流れのままで何もしなければ以下の6つの選択肢しか残されていないと指摘する。
ただ、これらの選択肢は悲観的なものが多いことから、中川氏は新たな手として「高度な新技術に賭け技術開発立国となることが必要」との方向性を示した。
「これまで存在していないものをつくり出すのが開発という行為であり、それには、既存技術をまねるのとまったく異なる思考と実践、さらに忍耐を必要とする。それを生み出すには、天才は別として過去の経験や訓練が生かされることが多い。これを踏まえるとこのような人間がより多く育っている場所で技術開発を行った方が成功率は高い」と開発に必要な環境の要件を定義。これにふさわしい環境が日本だと訴えた。
「日本にはこうした技術開発の経験や才能を持つ人材が多数いる。これらの人が大きな開発やプロジェクトだけでなく、細かいものでも世界最高の技術を開発する、ということが大切だ」と述べた。さらに「日本の町工場には世界の大手企業が参考にしようとする技術がたくさんある。また、また技術開発を助けてくれる人も多数いる。このように日本には技術開発ができる環境がそろっている」と中川氏は主張している。
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