IoT(モノのインターネット)によって、スマートフォンや家電、住宅、そしてクルマといった“モノ”が通信でつながるようになると、ライフスタイルにも変化が生まれる。Samsung Electronics(サムスン)のブースでは、住宅に見立てた展示の中にBMWの電気自動車「i3」が、家電と並びIoTの1つとして展示されていた。
一方、BMWのブースでは、住宅の玄関を模擬した場所に設置された「コネクテッドミラー」を使ったデモが披露された。一例として、i3で帰宅して住宅の前に停車した後、玄関のコネクテッドミラーに表示された情報から車庫入れを指示すると、自動でi3の車庫入れを始める。車庫入れが完了したら、ワイヤレス給電システムによって充電を行う。
この時、スマートフォンのスケジュール帳にある外出の時間と照らし合わせて、それまでに充電が完了するかなどの情報も表示してくれる。もし、予定が変わってもっと短時間で充電したい場合には、コネクテッドミラー上で急速充電に切り替えることも可能だ。電気自動車やプラグインハイブリッド車の充電状況やスマートフォンのスケジュールといった情報をトータルで管理して、ユーザーに必要な情報をまとめて表示する。
BMWは、乗用車で展開を進めている車載情報機器向けサービス「コネクテッドドライブ」を二輪車にまで広げようとしている。サービス名は「コネクテッド“ライド”」だ。
二輪車に乗車する際に装着することになるヘルメットの左目側にスマートグラスを装着することで、ライダーにとって重要な情報を表示する。一見すると、グーグルグラスのようなものに思うかもしれない。しかしグーグルグラスは、筆者の体験では、少し視線が上向きになって焦点も近くなるので、むしろ視野は狭まるイメージだ。BMWのコネクテッドライドのシミュレーション体験では、ライダーの視線がライディングに適した前方に向けられるようにスマートグラス上の情報投影位置が調整されている。
また投影される情報は、走行速度や工事中の警告など、二輪車に乗っている際に優先すべき重要な情報を中心に運転支援してくれるものになっている。
さらにBMWは、ネットワーク化とIT化によって提供できるサービスを「デジタルプレミアムモビリティサービス」と位置付け、クルマを運転しているときでも、クルマから離れているときでも、インテリジェントに継ぎ目のないユーザー体験を提供する方針だ。このサービスは、ユーザーの行動パターンや嗜好を学んでいく仕組みになっており、クラウド経由でデータがアップデートされていく。
BMWのインターネットを活用したサービスは、カーシェアの「ドライブナウ」、駐車場予約の「パークナウ」、充電インフラの「チャージナウ」など充実を続けている。先述のコネクテッドドライブのユーザー数も増加を続けているとのことだ。
BMWは「高度にIT化が進んでも、われわれが目指す未来の主役はあくまでドライバー」という点は強調している。そのためには、ドライバーの意志で運転することと自動運転との間の線引を明確にしつつ、居住空間やHMI(Human Machine Interface)でそのメリハリを付けることが重要だ。
渋滞時のように運転しても楽しくないシーンはクルマに舵を預けてリラックスして過ごす。IoTの活用によって、駐車場探しなどの煩わしさからドライバーを解放し、クルマに乗るという体験を便利で快適なものにする。そして、いざドライバーが自らの意志で運転しようという段階では、人とクルマのパフォーマンスを存分に引き出せる体制に切り替える。それが、BMWの目指す、人とクルマとITの関わり方なのである。
川端由美(かわばた ゆみ)
自動車ジャーナリスト/環境ジャーナリスト。大学院で工学を修めた後、エンジニアとして就職。その後、自動車雑誌の編集部員を経て、現在はフリーランスの自動車ジャーナリストに。自動車の環境問題と新技術を中心に、技術者、女性、ジャーナリストとしてハイブリッドな目線を生かしたリポートを展開。カー・オブ・ザ・イヤー選考委員の他、国土交通省の独立行政法人評価委員会委員や環境省の有識者委員も務める。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.