試乗当日は、砂漠の中にあるラスベガスとしては珍しく雨模様だった。ミラーの代わりにカメラで視界を得ることを考えると、悪天候は不利だ。さらにCESの会期中で混み合うラスベガスの街中という悪条件。しかし思い切って、街の中央を貫くストリップ通りに向かって走り出してみた。
もともとi8は後方の視界が良いとは言いにくい。そのこともあってか、左右のサイドミラーとルームミラーで後方を確認するのと比べると、ルームミラーのディスプレイ上に3つのカメラによる映像を合成した方が見られる範囲は広い。また、自転車や他車両が死角に存在するときには、左右のカメラユニットの付け根にあたる部分に警告が出る。
左右のカメラユニットに使われるレンズは、スマートフォンのタッチパネルで広く採用されている「ゴリラガラス」のタイプ2で、ひっかき傷に強く割れにくい。ヒーター付き保護ガラスも付いており、汚れ防止コーティングが施されている。さらには、さまざまな天候に対応すべく、カメラユニットのハウジングは雨滴がレンズの外側に流れるように設計されている。従来のサイドミラーよりも空力性能で有利なカメラユニットにより、Cd値が小さくなり、低燃費化につなげられる。
なお、ミラーに関する欧州と米国の法規は異なっており、欧州では4m後方で、幅1mまで見通せないといけない。一方、米国では幅2.5mで、欧州より後方まで見通せる必要がある。i8ミラーレスのルームミラーの合成映像は視野角が80度で、死角がないとされる。
実際に試乗してみると、従来の物理ミラーよりも、ルームミラーのディスプレイ上の合成映像で確認できる領域の方が確かに広い。ベース車のi8がお世辞にも後方視界が良いとはいえないこともあって、なおさらディスプレイに表示される合成映像の方が死角は少ない。カメラユニットの内側にある三角マークが光って死角の自転車などの存在を警告する機能と併せて使えば、i8ミラーレスの方が後方視界が確保しやすいのは事実だ。ラスベガスでは珍しい雨天という悪条件の中、ディスプレイには常にカメラの合成映像が映し続けられていた。
しかし従来の運転のやり方では、左右確認時に、後ろを振り返らないまでも、実際に首を左右に振って周囲を部分的に目視する。それゆえ、ルームミラーのディスプレイ上に車両後方側の全ての映像が見られると説明されても、違和感があるのは否めない。
試乗中に、自転車や二輪車が後方から近づいてくる状況では特に違和感が大きかった。具体的には、ルームミラー(のディスプレイ)の中では小さく映っている物体が、急に車両の左右の脇から現実の視野に入ってくるのである。このような違和感への対策として、例えば音声によって死角警告時には車両後方側からの音声を聞こるようにしたり、左折する時には左側から音声案内が聞こえるといった工夫も必要になってくるだろう。
こういったミラーレスの車両は、ドイツではVolkswagen(フォルクスワーゲン)のプラグインディーゼルハイブリッド車「XL1」が条件付きで認可を得ているが、市販車両ではない。市販車への採用までには法整備が必要になるだろう。BMWは、日本をはじめ世界各地で法整備が進みつつあることを背景に、2018年頃には市販する予定で開発を続けている。適切なカメラの選択、違和感の少ない映像の合成、音声による注意喚起や案内との併用など、検討を重ねることで“ミラーレスによる違和感”を拭い去って欲しい。
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