図面が読めない人とモノづくりする“プラスチック屋”さんzenmono通信(2/2 ページ)

» 2015年01月19日 10時00分 公開
[zenmono/MONOist]
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enmono三木氏 個人の方とお仕事をされる時の判断基準はありますか?

林氏 基本的には、私たちの仕事は利益が出るまで2年かかると思っています。ものを売るようになるまで1年近くかかる上、新しいものが徐々に世の中に認知されて受け入れられて商品として流れるまで、2年かかります。その2年間はお金はいただいていますが、どちらかというとそれは実費。労力の先行投資なんです。ですから、作っても商売にならないものはお客さまもお金を無駄にするし、われわれも労力を無駄にしてしまうので、事前にお断りします。その方を信頼できるような「思い」がないと、前向きには取り組めないです。

enmono三木氏 重要なのは「思い」ですか。

林氏 『プラスチックで「思い」を形にする会社』が、弊社の今のテーマなんです。お客さまの「思い」を世の中に出すお手伝いをするのが、プラスチックメーカーとしての弊社の職務です。逆に「思い」がない方の商品は、世の中に出しようがない。

enmono三木氏 その商品によって“ある不便”が解消されるとか、世の中が変わるとか、そういう部分ですね。

林氏 「僕はどうしてもこれが好きで、世の中に出た姿を見たい!」という方もいるでしょう。その人が何を作りたいのかを理解したいですし、できれば同じ世界観を共有したいと思っています。思いを共有しないと、お互い知恵を出し合えませんから。どれだけ周りを巻き込めたかによって、商品の付加価値は全然違ったものになります。私たちはプラスチックで製品を作ることに関してはそれなりに経験と人脈を培ってきた自負はあるので、それを目一杯使ってほしいです。

enmono三木氏 なるほど。

林氏 もう1つは、私たちが属している業界に対する戒めというところもあって。ついつい、業界の常識に縛られて「できない」と考えてしまうんですね。「こういうのが欲しいんです」と素直に言ってもらえると、世の中から要求されているものを感じることができます。常に問いかけがある方が、こちらも成長ができると思っています。

enmono三木氏 林さんと私は以前、中小製造業支援のベンチャー企業に勤めていました。大企業からいただいたお仕事を中小企業につなぐ立場だったんですけれども、林さんはそのころから、開発の人の思いを共有されていました。そのような林さんを見て、enmonoを起業するに至ったわけです。町工場とメイカーズのお引き合わせのサービスも、林さんとのコラボがきっかけで生まれたんですよね。私たちも、お引き合わせの前に必ずメーカーズの方と面談をして、「思い」があるかお話を聞いています。それと、判断基準はお人柄ですね。

林氏 もうかるかもうからないかは、やってみなければ分からない。「これだったら、この人と一緒だったら、やってもいい」と思えるものは、失敗しても「しょうがないな、自分のせいだな」と思えます。

enmono三木氏 林さんもプラスチックに対する熱い思いがありますよね。どちらかというと研究者です。

林氏 子どもの頃、私の父はプラスチックの成形屋をやっていて、同居していた祖父は研究職でした。プラスチック業界は自分の中でデフォルトだったわけです。今でもプラスチック業界にいて、自分の役割、自分は何ができるかを考えています。プラスチックが普及した今、諸先輩方が作ったものよりも親しみやすいものができればと思っています。

enmono三木氏 金属よりは若いですものね。金属は数千年の世界ですが、樹脂はまだ数十年ですから。

林氏 プラスチックは、素材としてはヨチヨチ歩きの赤ん坊です。物性も作り方も成熟していません。

enmono三木氏 だから可能性があるんですよね。私たちが提案しているマイクロモノづくりについては、何かお考えはありますか?

林氏 新興国に安いものを大量に供給する流れがある半面、先進国の人はニッチなマーケットで高品位なものを求めています。小さなマーケットに新しくて面白いものをたくさん供給する部分は、日本が一番、感性として進んでいると思うのです。

enmono三木氏 そういったものを考え出す層もすごく大きいですし、町工場というインフラもたくさんあります。その2つを、つないでいきたいのです。林さんのような、町工場のプロデューサ的な人たちの協力が必要なんです。最後に、林さんが考える日本のモノづくりの未来について教えてください。

林氏 世の中のルールががらっと変わって、今まで大企業が作っていたマーケットがすっぽりなくなっていくわけですが、その部分は中小企業が埋めないと絶対に成立しない場所なんです。ただ、そこをどう埋めていいか分からないから、「仕事がなくなった」とうろたえてしまう。少し考え直せば、仕事がないと言っても、そのものを欲しがっている人は減っていないんですよ。そこに手を出せるようになれば、今まで大企業が押さえていたマーケットが全部、中小企業に入ってくる。5年、10年後に、とんでもない新しい大企業が今の中小企業の中からどんどん生まれるのではないでしょうか。ですから、「日本のモノづくりの未来は明るい」と言いたいと思います。

enmono三木氏 ありがとうございました。

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