ガンダムのプラモデル(ガンプラ)の設計・製造の世界は、家電や産業機械とは随分と違う設計思想やカルチャーを持つ。ユニークなテーマでいつもと視点を変えることにより、モノづくりのヒラメキが得られるかも!?(編集部)
第1回で紹介したような、手の指の関節のような細やかな駆動部位をどのように成形しているのか。
「ここは私どものノウハウですから、詳しくは説明できません。ヒントは、射出タイミングと固まる温度、時間の制御。つまり材料特性と金型の作り方がポイントなんです」とバンダイ ホビー事業部 製品設計チーム マネージャー 大榎(おおえのき)直哉氏は話す。
それから、4色成形では、どうして色がまざらないのか。これもまた、上記と同様の事情だ。「4色で打てる成形機は、ここにしかありません。成形技術やノウハウもここだけのものです。混ざらないようにするのは特許で、金型の構造に工夫があります」(大榎氏)。
量産試作はやらない。簡易型はなく、本型1つのみ。テストトライは4、5回くらい行うのが標準とのことだ。
予備知識:ガンプラのできるまで: | |
---|---|
⇒ | 05 金型の設計 |
⇒ | 06 金型の製作 |
⇒ | 07 ガンプラの生産 |
第1回で、「解析(CAE)は一切やっていません」という大榎氏の大胆発言(?)を紹介した。あのような複雑な形状をしていれば、当然、樹脂流動解析を行っているだろうと普通は考えると思うが……同氏の発言はまぎれもない真実だ。
やらない理由は、「解析したくても、解析ができないから」。
「樹脂流動解析ソフトウェアを使うと、こういう形状はNGになってしまうんです。成形できないレイアウトです、って出てしまいます。夕方に解析をセットし、一晩が経ち、朝オフィスにやってくると、NGだらけなんです……」(大榎氏)。
部品本来の形状とかけ離れてしまうほどにデータを簡略化するか、あるいは部品点数を減らすかしないと、適正な解析自体ができないという結果だったという。試験的に、適正な解析が出来る状態までデータを軽くし流動解析をしてみたが、成形品1枚の解析で一晩以上掛けたにもかかわらず、出た結論は成形条件を検討できる分析データとして活用できるものではなかった。「ただし、設計の新しい試みを実験する場合には、部品単体で解析を行い、分析をすることはあります」(大榎氏)。
彼らは樹脂の流動性よりも、組み立ったときの外観の美しさとユーザの組み立てやすさを最優先に考えて、ランナーの部品配置を決めている。理論的に樹脂流動しやすい形状を作るために、外観や組み立て性を犠牲にしてはならない。それに、解析精度を上げるために試行錯誤する時間も、解析をする時間ももったいない。
「いまの解析技術だと、ガンプラのランナーを正確に解析するには、そこに人工知能でも組み込まない限り無理でしょうね」(大榎氏)。
しかし、現実に物が出来ているのは、なぜ?
それについては、「成形・金型職人さんの勘と経験で解決している」という単純明快な回答が。「成形条件のぎりぎりのところを狙っています。ゲート絞り込んだり、止めたりという感じでトライ&エラーを繰り返します。ガンプラのパーツをよく見ると、少し成形品の事情を知っている方なら『なんでランナーがつながってないんだ?』など、ちょっと様子が変な部分に気付くかもしれません。それは、私たちが苦労した跡だと思ってください(笑)」(大榎氏)。
地球連邦軍風の上着の背には、「匠」(たくみ)の文字が。ガンプラは、人の手による技術がないとできないことの象徴だという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.