タイプラスワン戦略におけるラオス、魅力を生み出す「ラーオ語」の価値とは?知っておきたいASEAN事情(16)(2/2 ページ)

» 2013年11月07日 10時00分 公開
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タイプラスワン拠点としてのラオスの強みと弱み

 さて、ここからは、ラオスがタイプラスワン戦略に適合するのかどうか、短所と長所から考察してみたいと思います。

 一般的な海外生産拠点としては、ラオスは難しい問題を多くはらんでいます。しかし、タイプラスワンという観点で考えると、ラオスは有力な拠点になり得るということが今回のポイントです。

タイプラスワン拠点としての短所

  • アジア地域の発展途上国が、国内経済発展を推し進める最も一般的な手段は、外国投資による工業化です。そして、工業化を進める上で重要な条件に、大型船の着岸できる港湾の整備があります。しかしラオスはそもそも海に面していないのですから、これは無理な話です。
  • 港湾施設以外にも、電気、水道といった基礎的な産業インフラの整備が遅れています。また、外国企業がラオス国内で事業活動を行うための各種法律(会社法、税法、会計基準、その他)がしっかり整備されておりません。よって初期投資額の大きい案件はリスクが高く、現実的ではないでしょう。
  • ラオスの人口は約664万人と少なく、国内経済の規模が限られています。地産地消の製造業モデルは当てはまりません。また、少ない人口は労働人口が限られることにもつながります。
  • ラオス政府が、積極的に外国からの投資、特に製造業の進出を求めているのか分からない部分があります。通常、外国企業からの直接投資を呼び込むため、政府主導で、現地法人設立の簡素化、外国人への労働許可緩和、所得税の減税・免除などの特恵措置を用意するのが一般的ですが、現時点では、ラオスより周辺各国政府の打ち出す優遇策の方が優っています。

タイプラスワン拠点としての長所

  • これはまずは労働賃金でしょうか。最低賃金が改定されたとはいえ、一般的なワーカーの給与水準は、まだまだ魅力的です。絶対とはいえませんが、今後、ラオスが急速な経済成長を遂げることは考えにくく、よって、給与水準の急激な上昇もないと判断されます。
  • 意外と知られていないことですが、ラオスのラーオ語はタイ語に近く、9割ほどの言葉が共通です。ラオス国内のTV放送は、タイのTV番組が多いため、一般的なラオス人はほぼ完璧にタイ語を理解するといわれています。言葉の壁が低ければ、タイからの技術移転は比較的容易に進む可能性が高いでしょう。例えば、タイ工場で作成した業務マニュアルを、そのままラオス工場でも使用できます。

短所を補って余りある「ラーオ語」の価値

 正直なところ、一般的な海外生産拠点としてのラオスには高いポテンシャルがないかもしれません。しかし、「タイプラスワン戦略」となると少し状況は異なってきます。タイに生産拠点を持つ企業が、競争力強化のため労働集約工程を分散させる戦略を取るのであれば、ラオスは大きな選択肢となりえます。本来、かなりマイナーな言語であるタイ語が通じると言うのは大きなアドバンテージと言えましょう。また、労働集約型の生産工程であれば、中心的な生産資源は人であり、ラオスの「背丈」にあった生産体制が敷けることも重要な要素です。

 タイでは、田舎者のことを「コンラーオ(ラオス人)」とやゆします。タイ人のラオス人に対する“上から目線”は気になるところですが、タイが製造拠点としても競争力を保つためには、周辺諸国との連携は欠かせません。その中でも、「タイなくしての存在価値」が低いラオスは、タイにとっても戦略上かなり重要なパートナーであるはずです。どこまでタイ人が気づいているかは不明ですが……。

 筆者は30年ほど前に、タイから陸路で首都ヴィエンチャンを訪れたことがあります。その際の印象は、街路樹が多く緑豊かな中に、仏教寺院、仏塔が点在する落ち着いた町でした。早朝には托鉢(たくはつ)をする僧侶と市民の姿が日常生活に溶け込んでいました。

托鉢 早朝の托鉢(たくはつ)風景。ルアンプラバンでは体験ツアーもあるようです

 最近のニュース画像を見ると、自動車の数が増え、よく見る東南アジアの地方都市然としています。あらためて、画一的な経済発展は、ラオスにとって本当に良いことなのか考えさせられます。

ヴィエンチェン 車の往来の増えたヴィエンチャン市街地

 次回の知っておきたいASEAN事情では、ベトナムを取り上げたいと思います。以前にも取り上げましたが(関連記事:ベトナムは「チャイナプラスワン戦略」の選択肢なのか)今回はあらためて、タイプラスワン戦略と言う観点で紹介する予定です。お楽しみに。

筆者紹介

(株)DATA COLLECTION SYSTEMS代表取締役 栗田 巧(くりた たくみ)

1995年 Data Collection Systems (Malaysia) Sdn Bhd設立

2003年 Data Collection Systems Thailand) Co., Ltd.設立

2006年 Data Collection Systems (China)設立

2010年 Asprova Asia Sdn Bhd設立- アスプローバ(株)との合弁会社

1992年より2008年までの16年間マレーシア在住




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