町工場発! 面白ガジェットとクラウドファンディングマイクロモノづくり 町工場の最終製品開発(23)(2/2 ページ)

» 2012年07月20日 11時00分 公開
[三木康司/enmono,@IT MONOist]
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注意点も認識する

 このように書くと、クラウドファンディングの活用は、町工場や個人にとっては「夢のようなツール」に映るかもしれません。しかし、利用者が注意するべき点も幾つかあります。

 まず、クラウドファンディングを実施するにあたり、社長もしくは担当者に、それなりの時間的負担が掛かってくることです。スムーズに寄付金を集めるためには、説得力のあるPVや写真、テキストなどの用意が必要です。寄付を頂いた方に対してのお礼やメッセージ、細かな問い合わせにもまめに対応しなければなりません。

 それから基本的に、PVや写真でもって、製品仕様やデザインをインターネットで先行公開することになります。ですから、開発段階で厳しい機密性が要求されるような製品には向きません。

 今回のTrick Coverのように、機密性がそれほど高くなくても、エントリーする事前に、最低限、特許や実用新案などの申請を済ませておくことが必要不可欠です。

クラウドファンディング活用で、これまでの考え方を根本から変えた

 最後に、本事例をマイクロモノづくりの流れで見ると、どのように捉えられるか、考えてみましょう。

マイクロモノづくりにおけるバリューチェーン(enmono社資料より)

 これまで紹介してきた数多くのマイクロモノづくり事例における課題は、大きく分けると、以下の2点に集約されるでしょう。

  1. 開発資金をどこから捻出するのか
  2. マーケティングや販路開拓はどうするのか

 これは、上の図で示すマイクロモノづくりの流れで言えば、「資源の確保」「マーケティング・ブランディング」「販売」のステップになります。クラウドファンディングの活用は、これら“厄介なハードル”を一気に下げる可能性を秘めているのです。

 これまでの町工場によるマイクロモノづくりでは、「アイデアがユニークで、他にない」製品だったとしても、「その製品を市場に出して、本当に売れるのか」といったところが不透明なことが多いものでした。従って、自社製品開発に投じる開発費や販管費(販売費および一般管理費)は、特に資本の小さな町工場にとって、大きなリスクとなっていました。

 クラウドファンディングで集められる50万〜100万円の寄付金は、製造業的な視点からすると、それほど大きな額ではありません。しかし町工場の自社製品開発のリスクを大幅に下げるということは、寄付金の額以上に、大きなメリットがあるのではないでしょうか。

 クラウドファンディングにエントリーし、多くの前向きな反響を得て、プロジェクトが成立するということは、「その製品を気に入ってくれて、寄付までしてくれるユーザーがいる」ということですから。

 今回のニットーのTrick Coverの事例では、製品のコンセプトや企画、デザインにおいて、藤沢氏自身の技術者としての実力、社長としての手腕が生きました。また、誰でも手軽にユーザーの反響を見られる、クラウドファンディングという新たなツールを効果的に活用したことも注目に値します。

 何より……、藤沢氏をはじめとする、Trick Coverを作り上げる人たちが、心からワクワクしながらモノづくりをしていることがよく伝ってきました。日本製造業復活のヒントは、そういった雰囲気の中にあるのではないかとわれわれは思っています。

 マイクロモノづくりにおいて、全く新たな時代の流れを作り出した、非常に重要なマイクロモノづくりの実践事例と、それを生んだニットーの藤沢氏に出会えたことに感謝です。

 これからも日本の未来を予感させるような、マイクロモノづくり企業を紹介していきます。今後の記事にご期待ください。



発電会議のご案内

enmonoは、東京都大田区の町工場2代目集団「おおたグループネットワーク(OGN)」と組んで、「発電会議」という町工場が製品開発の種を見つけるためのオープンな商品企画会議を定期的に実施しています。製品企画の素となる発想は、1人ではなかなか難しいものです。この会が皆さんの「何を作るのか」というニーズ探しの一助になればと思っています。

開催予定日や会場、テーマなどの情報は、下記のFacebookページから確認できます。ぜひご参加ください。

>>「発電会議」(facebookページ)



Profile

三木 康司(みき こうじ)

1968年生まれ。enmono 代表取締役。「マイクロモノづくり」の提唱者、啓蒙家。大学卒業後、富士通に入社、その後インターネットを活用した経営を学ぶため、慶應義塾大学に進学(藤沢キャンパス)。博士課程の研究途中で、中小企業支援会社のNCネットワークと知り合い、日本における中小製造業支援の必要性を強烈に感じ同社へ入社。同社にて技術担当役員を務めた後、2010年11月、「マイクロモノづくり」のコンセプトを広めるためenmonoを創業。

「マイクロモノづくり」の啓蒙活動を通じ、最終製品に日本の町工場の持つ強みをどのように落とし込むのかということに注力し、日々活動中。インターネット創生期からWebを使った製造業を支援する活動も行ってきたWeb PRの専門家である。「大日本モノづくり党」(Facebook グループ)党首。

Twitterアカウント:@mikikouj



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