連載
» 2011年12月16日 14時30分 公開

固体酸化物形燃料電池(SOFC)技術〔後編〕注目の集まる家庭用燃料電池の知財動向を読む知財コンサルタントが教える業界事情(10)(3/3 ページ)

[菅田正夫,@IT MONOist]
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世界的な動向を踏まえ、日本企業が今後取り組むべきこと

 日本企業が今後取り組むべきSOFC技術開発は、中規模から大規模の発電への対応であろうと筆者は考えます。

 というのも、日本企業がかつて先頭を切って取り組んだ太陽電池(光電変換装置)も、民生用機器向け(電卓)から家庭用発電機システムを経て、発電所規模レベルへと事業開発が進められました。

 急速な経済発展を遂げつつある国々(中国・韓国など)には電力事情悪化の傾向があります。先進国/地域(米国・EU・日本)には、電力供給体制や電力供給網にそれぞれ“泣き所”を持っています*。しかも、クリーンエネルギーという世界的要請から、「再生可能エネルギー」や「コジェネレーションシステム」のエネルギー効率向上とその普及が求められています。

 このような世界的/社会的要請から、今後のSOFCには中規模から大規模の発電システム対応が求められるようになります。


*先進国の電力供給の“泣き所” 日本には東西の送電周波数の違いがあり、送電網と電力発電体制の再構築が求められています。また、米国には、老朽化した送電網の安定性を欠く連結や慢性的な送電容量不足があり、社会インフラである送電網の脆弱さが指摘されています(2011年6月にオバマ大統領が「米国電力網の近代化とクリーンエネルギー技術開発の促進」を狙ったプランを発表)。そして、欧州には各国間での送電網は既にあるものの、欧州内外で新たに生み出される電力(バルト海での風力発電や北アフリカ砂漠での太陽光発電など)に対応した送電網の拡充がほとんど進んでいないようです(例えばドイツの過去5年間の送電網の新設はわずか90km)。


 世界の現状を見渡すと、米国ではデータセンター向けSOFC(中規模発電)が既に実現しており、今後、石炭ガス化複合発電用SOFC(大規模発電)を目指していくものと推測されます。欧州には「2004年EU指令」があり、各国のエネルギー供給事業者(電力・ガス)はCeramic Fuel Cells(オーストラリア)のm-CHP(micro-Combined Heat and Power)の導入を進めています(前編参照)。

 2010年11月に、韓国電力研究院は家庭用SOFCを開発、試験運転を開始しています。そして、2011年11月には、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC:Molten Carbonate Fuel Cell)を用いた大規模発電システムが韓国に設置されたと伝えられています*。ですから、韓国ではMCFCの次に、SOFCを位置付けていると推測されます。


*溶融炭酸塩形燃料電池の設置 2011年11月15日付けのFuel Cell Energyプレスリリースを参照(韓国・大邱に世界最大のMCFC発電システムを設置、運転を開始した事を発表)。


 家庭用SOFCを製品化した日本企業には、太陽電池事業開発で学んだことを生かして、「ストーリー性のあるSOFC大規模発電システムという社会インフラ事業開発」に取り組み、諸外国企業との事業開発競争で生き残ることが期待されています。


中小型定置用燃料電池開発――リン酸形から高分子形へ、そして固体酸化物形へ

 日本での燃料電池開発は自動車でスタートしましたが、その後の主戦場は燃料(都市ガスと石油)業界へと移り、定置型燃料電池の技術開発が始まりました。都市ガスや石油を燃料源とするなら、移動する自動車用*ではなく、発電時に生じる熱も併せて利用できる定置用燃料電池を目指すのが得策になります。


*自動車用燃料電池 2002年:ホンダと日産が高分子形燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell、作動温度:80℃)搭載の実用試験車を公開しています。


 定置用燃料電池としては、リン酸形燃料電池(PAFC、作動温度:約200℃)が1998年に商用化されました。2000年ごろまでは、PAFCは中小規模の工場、ホテル、病院といった業務用の建物に、100kW級の定置型として設置されていましたが、普及するには至りませんでした。

 PAFCが普及しなかった理由としては、電解質としてリン酸(作動温度200℃では液体)が使われているため、設置者に液漏れ発生時の不安を抱かせると同時に、作動温度200℃が安全性/熱利用のいずれの観点からも、中途半端な温度であったためと考えられます。

 そして、これらの課題を乗り越える技術として、固体形であるPEFC(作動温度:80℃)とSOFC(作動温度:700℃)が注目されるようになりました。まず2009年5月からPEFCの販売が開始され、2011年にJX日鉱日石エネルギー(セルスタック:京セラ製)が本格的に製品化しました。家庭用燃料電池「エネファーム」の購入検討者から見れば、システムの小型化と発電重視となっているSOFCの方が、PEFCに比べやや優位といったところでしょうか。

 とはいっても、PEFCとSOFCのいずれもが、現状では補助金制度に頼らねばならない販売価格となっており、とても残念なことです。




分析仕様・条件

 本稿では、下記の分析条件で各社の動向を考察しました。特許データベースの使い方が分かれば、下記の条件検索パラメータを活用してご自身でも確認できます。


データベース

項目 内容
日本特許 CKSWeb

分析条件

項目 内容
日本特許 Fタームのテーマコード5H026(燃料電池(本体))と5H027(燃料電池(システム))に注目し、固体酸化物燃料電池(SOFC)は5H026AA06*(5H026EE12+5H026EE13)+5H027AA06+5H018AA06を、SOFCシステムは5H027AA06を、それぞれ含む特許
企業名 企業名の変遷を考慮しました 例)東洋陶器⇒東陶⇒TOTO

日本特許の固体酸化物形燃料電池(SOFC)のFタームと共同出願

 本稿掲載の図2〜図7では、「CKSWeb」で、それぞれFタームとして含む特許の出願年別件数推移を整理しています。

  • SOFC(5H026AA06*(5H026EE12+5H026EE13)+5H027AA06+5H018AA06)
  • SOFCシステム(5H027AA06)

 なお、「Fタームは特許明細書に記載されている発明の技術内容に基づいて、日本特許庁が独自に付与している多観点からの特許分類(従来技術に関わる技術内容は付与対象外となっています)」であることに注意してください。

 本稿掲載の図2〜図7は、中央光学出版のサービス「CKSWeb」で、出願人名に登場する分析対象企業以外の、他の出願人名に注目して共同出願件数として整理しました。






筆者紹介

菅田正夫(すがた まさお) 知財コンサルタント&アナリスト (元)キヤノン株式会社

sugata.masao[at]tbz.t-com.ne.jp

1949年、神奈川県生まれ。1976年東京工業大学大学院 理工学研究科 化学工学専攻修了(工学修士)。

1976年キヤノン株式会社中央研究所入社。上流系技術開発(a-Si系薄膜、a-Si-TFT-LCD、薄膜材料〔例:インクジェット用〕など)に従事後、技術企画部門(海外の技術開発動向調査など)をへて、知的財産法務本部 特許・技術動向分析室室長(部長職)など、技術開発戦略部門を歴任。技術開発成果については、国際学会/論文/特許出願〔日本、米国、欧州各国〕で公表。企業研究会セミナー、東京工業大学/大学院/社会人教育セミナー、東京理科大学大学院などにて講師を担当。2009年キヤノン株式会社を定年退職。

知的財産権のリサーチ・コンサルティングやセミナー業務に従事する傍ら、「特許情報までも活用した企業活動の調査・分析」に取り組む。

本連載に関連する寄稿:

2005年『BRI会報 正月号 視点』

2010年「企業活動における知財マネージメントの重要性−クローズドとオープンの観点から−」『赤門マネジメント・レビュー』9(6) 405-435


おことわり

本稿の著作権は筆者に帰属いたします。引用・転載を希望される場合は編集部までお問い合わせください。



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