耐熱鋼の基礎知識:鉄鋼材料の基礎知識(14)(3/3 ページ)

» 2026年09月30日 07時00分 公開
[ひろ,MONOist]
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フェライト系耐熱鋼

 フェライト系耐熱鋼は、フェライト組織を示す耐熱鋼です。炭素含有率が低めであり、Crを10.5〜27%の範囲で含有しています。Cr以外の合金元素はあまり含有しておらず、比較的シンプルな組成の耐熱鋼です。具体的な品種としては「SUH446」や「SUS430-HR」などがあります。

 フェライト系耐熱鋼は炭素含有率が低めであることから、高温強度は他の耐熱鋼に比べて劣ります。ただし耐高温酸化性に優れており、850℃程度まではその特性を発揮します。また熱膨張係数が小さく、熱伝導度が大きいため、熱疲労特性にも優れます。そのため、熱応力が問題となる高温機器に広く使用されています。

マルテンサイト系耐熱鋼

 マルテンサイト系耐熱鋼は、焼き入れ/焼き戻しによってマルテンサイト組織とした耐熱鋼です。フェライト系耐熱鋼の組成から炭素を増量した組成であり、一部の品種はニッケル(Ni)やモリブデン(Mo)などの合金元素が少量添加されています。具体的な品種としては「SUH3」や「SUS403-HR」などがあります。

 マルテンサイト系耐熱鋼は強度と靭性に優れる鋼種であり、550℃程度までであれば高温強度とクリープ変形特性に優れます。それ以上の温度になると組織変化が生じてしまい、著しい強度低下が生じます。Cr含有率があまり高くないため、高温酸化特性は他の鋼種よりも劣ります。550℃程度までの温度域で、耐酸化性よりも強度を重視する高温機器に使用されます。エンジン吸気バルブがその代表例です。

オーステナイト系耐熱鋼

 オーステナイト系耐熱鋼は、オーステナイト組織を示す耐熱鋼です。NiとCrを多量に含む組成となっており、耐熱鋼の中では最も多くの品種があります。具体的な品種としては「SUH660」や「SUS304-HR」などがあります。

 オーステナイト系耐熱鋼は面心立方構造のため、体心立方構造のフェライト系耐熱鋼やマルテンサイト系耐熱鋼と比べて原子の拡散速度が遅く、高温強度やクリープ強度が高いという特徴があります。また高温酸化特性と高温腐食特性にも優れるため、600℃以上の高温域での使用が可能となっています。

 一方で熱膨張係数が大きいため、熱応力が問題となる機器への使用は注意が必要です。使用例としてはエンジン排気バルブ、耐熱ボルト、耐熱バネなどが挙げられます。

析出硬化系耐熱鋼

 析出硬化系耐熱鋼は、析出硬化性を与える元素を添加し、熱処理によって優れた高温強度を示す耐熱鋼です。母相中に微細な粒子や金属間化合物などを析出させることで、高強度化を図っています。

 JISには「SUS630-HR」と「SUS631-HR」の2品種が規定されています。前者は17%Cr-4%Ni-4%Cu-0.3%Nbを組成とし、微細なCuリッチ相が析出しています。後者は17%Cr-7%Ni-1%Alを組成とし、微細なNi-Al化合物が析出しています。

 析出硬化系耐熱鋼は優れた高温強度を示しますが、500℃以上では微細粒子の粗大化が生じて組織が安定しないため、使用温度は500℃程度までとなっています。

その他の耐熱鋼

 JISには上述した耐熱鋼以外にも、優れた耐熱性を持つ鉄鋼材料がいくつか規格化されています。例えばCrMo鋼の鍛造材で、高温圧力容器向けの材料である「SFVA」や、鋳造材の耐熱鋼である「SCH」などがあります。ここでは社会的に重要度の高い耐熱鋼として、ボイラーやそれに付帯する配管などに用いられる耐熱鋼について紹介します。

ボイラー/配管用耐熱鋼

 ボイラーやそれに付帯する配管は高温高圧の蒸気または流体が流れるため、高い信頼性が求められます。JISにはボイラ用耐熱鋼として、合金鋼系の「STBA」とステンレス鋼系の「SUSxTB」が規格化されています。また配管用耐熱鋼として、合金鋼系の「STPA」とステンレス鋼系の「SUSxTP」が規格化されています。

 さらに「発電用火力設備の技術基準の解釈(火技解釈)」には、火力発電プラント向けのボイラー/配管用耐熱鋼が登録されています。前述のJIS材料を改良した材料となっており、材料記号の先頭に「火」が付きます。特に過酷な条件とされている火力発電プラント用材料に対応しています。

図9 JISに規格化されているボイラー/配管用耐熱鋼の一覧[参考文献6、7] 図9 JISに規格化されているボイラー/配管用耐熱鋼の一覧[参考文献6、7][クリックで拡大]

 合金鋼系の中から主要なものをいくつか紹介します。「STBA24/STPA24」は組成を2.25%Cr-1%Moとした耐熱鋼であり、高温強度特性に優れているため、ボイラー/配管に広く使用されています。「STBA26/STPA26」は組成を9%Cr-1%Moとしたフェライト系耐熱鋼であり、STBA24/STPA24よりも高温強度特性と耐高温腐食性に優れるため、より高温域に対応しています。

 火技解釈材では、STBA24/STPA24を改良した「火STBA24J1/火STPA24J1」があります[参考文献8]。これはSTBA24/STPA24中のMoをタングステン(W)に置き換え、さらにバナジウム(V)とニオブ(Nb)を添加した耐熱鋼であり、母相中に微細な炭窒化物が析出しているため優れたクリープ強度特性を示します。

 「火STBA28/火STPA28」はSTBA26/STPA26を改良した耐熱鋼であり、こちらもVとNbを添加することでクリープ強度特性が各段に向上しています。さらに、これを改良した「火STBA29/火STPA29」は火STBA28/火STPA28のMoの一部をWに置き換えたものであり、フェライト系耐熱鋼として世界最強の高温強度を有します。

 現在国内で稼働している火力発電プラントにはこうした耐熱鋼が使用されており、世界最高の発電効率を実現しています。発電効率を高めるには、化石燃料の燃焼によって発生する蒸気の温度と圧力を高める必要があります。蒸気が流れる配管には強烈な負荷がかかるため、それに耐え得る耐熱鋼が必要となりますが、日本はそれを開発できたことで世界最高の発電効率を実現できました。今後も耐熱鋼の改良により、さらなる発電効率の向上とCO2排出量の削減が期待されています。このように、耐熱鋼の社会的意義は非常に大きなものとなっています。



 以上、耐熱鋼について説明しました。耐熱鋼の材料特性や種類についてご理解いただけたなら幸いです。次回は自動車向けの高機能鋼材である「ハイテン」について説明します。

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筆者紹介

ひろ/モノづくりの解説書

鉄鋼品メーカーに勤務するモノづくりエンジニア。入社以来、大型鉄鋼品の技術開発、品質保証、生産管理等の業務に携わってきた。自身が運営するWebサイト「モノづくりの解説書」では、モノづくり業界の魅力を発信する記事や技術解説記事などを公開している。


参考文献:

[1]JFEスチールのホームページ、Q&A「鋼管の強度って?」

[2]不二製作所のホームページ、黒皮・熱処理・溶接スケール除去

[3]「腐食防食講座−高温腐食の基礎と対策技術−」第4報:焼却プラントにおける高温腐食と対策、野口学ら、エバラ時報、No.254、p.29-40、2017年

[4]JIS G 4311:2019、耐熱鋼棒及び線材

[5]JIS G 4312:2019、耐熱鋼板及び鋼帯

[6]JIS G 3458:2020、配管用合金鋼鋼管

[7]JIS G 3462:2023、ボイラ・熱交換器用合金鋼鋼管

[8]発電用火力設備の技術基準の解釈(平成25年5月17日)


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