今なお工業材料の中心的な存在であり、幅広い用途で利用されている「鉄鋼材料」について一から解説する本連載。第12回は、工具鋼について説明する。
連載第11回では、特殊な鉄鋼材料としてさまざまな場面で活躍している「特殊鋼」について、その基礎知識を説明しました。代表的な特殊鋼として「機械構造用鋼」「軸受鋼」「ばね鋼」などを紹介しましたが、今回紹介する「工具鋼」も特殊鋼を代表する素晴らしい鉄鋼材料です。
モノづくりを行うときはさまざまな「工具」が使用されますが、工具鋼はその基となる材料です。現代はモノづくり技術の進化によって精密/高品質な製品が多く製造されていますが、そこには優れた工具鋼の存在が欠かせません。高度な材料特性をもつ工具鋼があるおかげでな良質な工具が作られ、精密/高品質な製品が生み出されています。
現在、工具鋼はさまざまな種類のものが登場しています。特殊鋼メーカーも各社独自の工具鋼を開発し、販売しています。工具鋼は鋼種によって材料特性が異なるため、用途に応じて使い分ける必要があります。今回は工具鋼の基本的な材料特性や、工具鋼の種類などについて説明します。
JISによると、工具鋼は「金属または非金属材料の切削、塑性加工用などの各種治具(ジグ)/工具に用いる鋼の総称」と定義されています。工場で勤務されている方であれば日々さまざまな治具や工具に触れる機会があると思いますが、それら治具や工具に使用される鋼のことを工具鋼といいます。
例えばどのような製品に工具鋼が使用されているのかを見てみます。図1に工具鋼が使用されている製品の例を示します。
身近な工具では「たがね」「ポンチ」「刻印」などの作業工具に工具鋼が使用されています。貫通穴を開けるときに使用される「キリ」や、手仕上げに使用される「やすり」にも工具鋼が使用されています。寸法や形状を正確に測定するときに使用される「ねじゲージ」や「リングゲージ」などの測定工具にも工具鋼が使用されています。
切削工具にも工具鋼が多く利用されています。近年は超硬合金(タングステンカーバイド)製やセラミック製のものが増えていますが、旋盤に使用される「バイト」は古くから工具鋼が使用されてきました。「ドリル」「タップ」「エンドミル」などの切削工具にも工具鋼が使用されています。その他には「カッターナイフ」「スリッターナイフ」「ハクソー」などの刃物にも工具鋼が使用されています。
特殊な治具/工具としては「金型」に工具鋼が利用されています。金型といってもその種類は多く、代表的なものでは、金属板を曲げたり打ち抜いたりして部品を成形する「プレス型」があります。固体の金属を鍛造しながら成形する「鍛造型」や、溶かした金属を流し入れて押し固める「ダイカスト型」もあります。それらの金型の多くに工具鋼が使用されています。
このように、非常に幅広い種類の治具/工具に工具鋼が利用されています。工具は用途ごとに要求される材料特性が異なるため、工具鋼はその用途に見合うように化学成分や材料特性が調整されています。そのため、工具鋼は特殊鋼の中でも特に多くのラインアップがあります。
近年は加工される材料の硬さが上がり、また加工速度も上がっています。これにより、工具に生じる負荷も高まっています。しかしこれに応えるように、工具鋼の性能も日々向上しています。優れた製品づくりが可能なのは優れた工具鋼があるおかげであり、工具鋼はモノづくりの生産現場を支える立役者と言えます。
工具鋼は「硬さ」と「耐摩耗性」に優れることが最大の特徴です。
工具はその特性上、相手材との接触によって高い面圧や衝撃負荷を受けます。これによって一部が欠けたり、折損したりすることが予想されます。また相手材と繰り返しこすれ合うことですり減り、摩耗していくことが予想されます。そのため、工具鋼は高い面圧、衝撃負荷、こすれ合いに耐えられる硬さと耐摩耗性を有しています。
高い硬さと耐摩耗性をもたせるため、工具鋼は炭素(C)量を高めとする成分設計がなされています。焼き入れによって基地をマルテンサイトにし、焼き戻しによって耐摩耗性の向上に必要で硬質な炭化物(一次炭化物、二次炭化物)を基地中に分散/生成させています。ロックウェル硬さにすると、HRC60前後の高い硬さとなります。
さらに耐摩耗性が必要な場合にはクロム(Cr)、タングステン(W)、バナジウム(V)などの炭化物生成元素を添加し、より硬質な炭化物を生成させています。
工具鋼は用途に応じ、その他の材料特性が付与されています。熱間鍛造型やダイカスト型などの熱間金型は高温の材料と接触するため、温度の上昇に伴う軟化(強度低下)が懸念されます。そのため、熱間金型用の工具鋼ではモリブデン(Mo)、タングステン(W)、バナジウム(V)などの軟化抵抗性が高い合金元素を添加し、「高温強度」を向上させています。
熱間金型では、図4に示すような「ヒートチェック」の発生も深刻な問題となります。ヒートチェックとは、加熱と冷却に伴って膨張と収縮が繰り返されることで生じる亀甲状の割れのことです。ヒートチェックが発生すると、加工される材料の寸法精度や意匠性が悪くなります。そのため、熱間金型用の工具鋼では「耐ヒートチェック性」も付与されています。
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