工具鋼のプロセスは他の特殊鋼のプロセスと同様であり、(1)製鋼→(2)鋳造→(3)熱間加工→(4)二次加工というプロセスで製造されます。図5にそのプロセスを示します。各工程の詳細については、前回をご参照ください。
工具鋼に高い品質が要求される場合には、やはり「特殊溶解技術」が適用されます。例えばプラスチック金型用鋼は、加工したときに高い鏡面性が要求されます。これを実現するには鋼中の非金属介在物を低減して清浄度を高める必要があるため、「VAR」や「ESR」によって鋼の高清浄度化を行います。
また、一部の工具鋼では「粉末冶金(ふんまつやきん)」による製造も行われています。粉末冶金は、粉末にした金属を金型に入れて圧縮し、高温で焼結(しょうけつ)して焼き固める方法です。粉末冶金によって製造された鋼は結晶粒が微細で均質な組織となるため、高い靭性を確保することができます。適用例としては「粉末ハイス」と呼ばれる種類の工具鋼が挙げられます。
工具鋼は特殊鋼メーカーによって製造されることが多く、完成した工具鋼は焼きなまし状態で出荷されます。工具鋼を購入したユーザーは必要な形状に加工し、焼き入れ・焼き戻しなどの熱処理を施して工具に仕上げます。
工具鋼の種類は大きく3つあり、「炭素工具鋼」「合金工具鋼」「高速度工具鋼」があります。それぞれ日本産業規格(JIS)に規格化されており、規格ごとに10〜20程度の品種が規定されています。ユーザーは用途に合わせ、これらの中から適切な品種を選定することとなります。
実際は上記の工具鋼以外に「機械構造用鋼」「軸受鋼」「ステンレス鋼」「マルエージング鋼」などの特殊鋼も工具として用いることができます。靭性や耐食性などの観点から、そちらの特殊鋼のほうが用途に見合う場合があるからです。その他に「プリハードン鋼」や「フレームハード鋼」などの特殊な工具鋼もあり、特殊鋼メーカーもオリジナルの工具鋼を幾つも販売しています。各社のホームページに載っているため、確認してみてください。
以下に各種工具鋼(JIS材)の詳細を説明します。
炭素工具鋼は、その名の通り材質を炭素鋼とした工具鋼です。多量の炭素(C)を含有しており、これに少量のケイ素(Si)とマンガンを含有しています。特別な合金元素を含有していません。多量の炭素により、焼き入れを施すと非常に硬い材質となります。そのため、硬さや耐摩耗性が要求される一般的な冷間工具に使用されます。
JISには全11品種の炭素工具鋼が規定されています。材料記号は「SK」であり、Sは「Steel(鋼)」、Kは「Kougu(工具)」を意味します。図7に示すように、品種ごとに炭素量が異なります。
炭素量が一番多い品種は「SK140」であり、1.30〜1.50%あります。炭素工具鋼の中で一番硬さと耐摩耗性がありますが、靭性は期待できません。JISには用途例として「刃やすり」「紙やすり」が記述されています。
炭素量が一番低い品種は「SK60」であり、0.55〜0.65%です。硬さと耐摩耗性は炭素工具鋼の中で一番低いものの、そのぶん靭性があります。JISには用途例として「プレス型」が記述されています。
工具鋼は非常に硬いため、切削加工を行うときは焼きなましを施し、一度被削性を向上させます。SK140ではHB217以下、SK60ではHB183以下の硬さまで軟らかくします。
焼き入れを施すときは、保持温度を740〜840℃とし、水冷します。冷やしすぎると焼き割れを起こしやすいため、約66℃くらいで引き上げます[参考文献7]。焼き入れ後は150〜200℃の低温焼き戻しを施すことで、硬さを60HRC前後とします。
なお、炭素工具鋼は肉厚が大きいと、焼き入れを施しても内部まで十分に焼きが入りません。そのため、硬さ不足が生じます。従って、十分な硬さが得られない場合は次の「合金工具鋼」が選択されます。
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