合金工具鋼は、その名の通り材質を合金鋼とした工具鋼です。炭素工具鋼の成分に「焼き入れ性」を高める合金元素や、「耐摩耗性」を高める合金元素などが添加されています。品種によっては特別な合金元素を添加して「靭性」や「耐熱性」を高めているため、負荷が高い工具に適した工具鋼となっています。
鋼種は大きく3つあり、高炭素/低合金鋼系の「SKS」、高クロム系の「SKD」、高靭性系の「SKT」があります。JISには化学成分ごとに計20品種の合金工具鋼が規定されています。
JISではこれらの品種を「切削工具鋼用」「冷間金型用」「熱間金型用」の主用途に分類しています。昔は「耐衝撃工具鋼用」もありましたが、あまり使用されなくなったため、現在のJISからは削除されています。
「切削工具鋼用」の合金工具鋼は、全6品種あります。図8に全品種の化学成分を示します。全て高炭素/低合金鋼系の「SKS」で、鋼の焼き入れ性を高めてくれるクロム(Cr)が少量添加されています。そのため、焼き入れする際は油冷で硬さを出すことが可能で、焼き割れや変形のリスクが減ります。
「SKS2」と「SKS7」は炭化物生成元素であるタングステン(W)が少量添加されているため、高い耐摩耗性を示します。JISには用途例として、SKS2はタップ、ドリルなどが、SKS7はハクソーが記述されています。
「冷間金型用」の合金工具鋼は全8品種あり、「SKS」と「SKD」がそれぞれ4品種ずつあります。図9に全品種の化学成分を示します。
「SKS3」と「SKS93」は、どちらも冷間プレス型によく使用される代表的な合金工具鋼です。マンガン(Mn)とクロム(Cr)を約1%ずつ添加することで、鋼の焼き入れ性を高めています。SKS3ではタングステン(W)も添加し、硬質の炭化物を生成して耐摩耗性を向上させています。焼き入れは油冷で行い、焼き戻しは低温焼き戻しを施します。
「SKD11」は汎用性が高く、鍛造型、転造ダイス、フォーミングロールなどの多くの冷間工具に使用される合金工具鋼です。本品種は炭素量を約1.5%とし、クロム(Cr)を約12%と、少量のモリブデン(Mo)を添加しています。これによって基地中に粗大なクロム炭化物が形成されるため、SKS材よりも優れた耐摩耗性を示します。また、焼き入れ性が非常に良いため、空冷で硬化します。焼き戻しは用途に合わせて低温焼き戻し/高温焼き戻しが選択されます。
「熱間金型用」の合金工具鋼は全6品種あり、「SKD」が5品種と「SKT」が1品種あります。図10に全品種の化学成分を示します。
「SKD61」は代表的な熱間金型用合金工具鋼です。炭素量を約0.38%とし、クロム(Cr)を約5.2%、モリブデン(Mo)とバナジウム(V)を少量添加しています。これらの元素は基地中に微細な炭化物として析出し、高温での軟化抵抗性を向上します。靭性や耐ヒートチェック性に優れるため、熱衝撃や熱疲労が高い熱間鍛造型やダイカスト型などによく使用されます。
現在のJISでは唯一のSKT材となっている「SKT4」は炭素量を約0.55%とし、ニッケル(Ni)を約1.65%、クロム(Cr)を約1%、モリブデン(Mo)を約0.45%、バナジウム(V)を約0.1%添加しています。高い靭性を有するとともに、耐ヒートチェック性にも優れるため、大きな衝撃を伴う熱間ハンマー型によく使用されます。
高速度工具鋼は英語名を「High speed tool steels」とし、「ハイス」の愛称で親しまれている工具鋼です。切削工具用に開発された工具鋼であり、高い「耐摩耗性」「靭性」「耐熱性」を兼ね備えています。用途例としてはドリル、エンドミル、タップ、ホブなどが挙げられます。なお、高速度工具鋼の名前の由来は「難削材を高速度で切削できること」から来ています。
高速度工具鋼は材料記号を「SKH」とし、全13品種がJISに規定されています。成分は高炭素量とし、タングステン(W)やコバルト(Co)などのレアメタルを多量に含む点が特徴です。そのため、高速度工具鋼は高価な部類となります。
鋼種は大きく「タングステン系」と「モリブデン系」があります。タングステン系はタングステン(W)が主要な合金成分であり、全4品種あります。モリブデン系はモリブデン(Mo)が主要な合金成分であり、「通常の溶解材」が全8品種と「粉末冶金製品」が1品種あります。図11と図12にそれぞれの工具鋼の化学成分を示します。
「SKH51」は代表的なモリブデン系の高速度工具鋼です。炭素量を約0.85%とし、クロム(Cr)を約4%、モリブデン(Mo)を約5%、タングステン(W)を約6%、バナジウム(V)を約2%添加しています。これらの合金元素は基地中に硬質の炭化物を生成し、高い硬さ、耐摩耗性、耐熱性を生み出します。靭性にも優れることから、切削工具だけでなく冷間プレス型や冷間鍛造型などにも使用されます。
「SKH40」はJIS材の中で唯一、粉末冶金によって製造されるモリブデン系の高速度工具鋼となります。粉末冶金で製造することで均一かつ微細な組織となるため、他の高速度工具鋼よりも耐摩耗性や靭性が優れた工具鋼となります。
高速度工具鋼は合金元素の量が多いため、焼き入れを行う際は高温で長時間保持し、合金元素を十分に固溶させる必要があります。保持温度はタングステン系では1260〜1300℃、モリブデン系では1190〜1230℃が目安です。保持温度が高めである分、他の工具鋼よりも焼き入れ後の硬さが低くなります。そのため焼き入れ後は高温焼き戻し(保持温度は500〜600℃程度)を行い、二次硬化させて高い硬さを得ます。
以上、工具鋼について説明しました。工具鋼の材料特性や種類についてご理解いただけたなら幸いです。次回は、他の特殊鋼である「ステンレス鋼」について説明します。
ひろ/モノづくりの解説書
鉄鋼品メーカーに勤務するモノづくりエンジニア。入社以来、大型鉄鋼品の技術開発、品質保証、生産管理等の業務に携わってきた。自身が運営するWebサイト「モノづくりの解説書」では、モノづくり業界の魅力を発信する記事や技術解説記事などを公開している。
[1]小山刃物製作所、製品カタログ
[2]新潟精機、製品カタログ
[3]AP&Tホームページ
[4]合金工具鋼SKD11の硬さと金属組織、新潟県工業技術総合研究所 技術トピックス、平成29年5月30日
[5]ダイカスト金型表面に発生する熱応力亀裂に対するCAEの適用、小畑克洋ら、日立金属技報Vol.32、p.30、2016
[6]JIS G 4401:2022、炭素工具鋼鋼材
[7]工具鋼の熱処理、鶴見州宏、ぷらすとす、第4巻、第38号、p.22-26、2021年
[8]JIS G 4404:2022、合金工具鋼鋼材
[9]JIS G 4403:2022、高速度工具鋼鋼材
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