今なお工業材料の中心的な存在であり、幅広い用途で利用されている「鉄鋼材料」について一から解説する本連載。第3回は、鉄鋼材料の種類と成分について説明する。
連載第2回では、鉄の基本的な性質について説明しました。そこでは、鉄は地球上に豊富に存在し、多彩な性質をもつことを説明しました。そんな鉄を材料として活用しようと、世界中で数々の研究や材料開発がなされてきました。その結果、非常に多くの種類の鉄鋼材料が誕生しています。現在、鉄鋼材料は単に構造用部材としての機能をもつにとどまらず、耐熱性や耐食性など、優れた特性を兼ね備えた高機能材料にまで発展しています。鉄鋼材料がもつ優れた特性は、大型化/高出力化し、過酷な環境で使用される現代の機械や構造物に必要不可欠なものになっています。
現在、日本産業規格(JIS)には、約200もの数の鉄鋼材料の材質に関する規格が制定されています。そこから化学成分または強度ごとに品種が細分化されており、総じて2000を超える品種の鉄鋼材料が規定されています[参考文献1]。
それぞれ材料特性が異なるため、使用されるときは用途に見合った材質の鉄鋼材料が使用される必要があります。しかし、鉄鋼材料を熟知していない人がこの中から最適なものを選び出すことは、至難の業と言えます。そこでまずは、どのような鉄鋼材料があるかを体系的に知っておくことが大切となります。そこで今回は、鉄鋼材料の種類と、鉄鋼材料の大事な要素である化学成分(以降、成分という)について説明します。
鉄鋼材料を最もシンプルに分類すると、「純鉄(じゅんてつ)」「鋼(はがね)」「鋳鉄(ちゅうてつ)」に分類されます。この分類は、鉄鋼材料を覚えるときにまず覚えるべき分類と言えます。JIS G 0203の「鉄鋼用語(製品および品質)」では、それぞれ次のように定義されています。
炭素その他の不純物元素が、非常に少ない鉄。不純物元素の限界についての明確な区分はないが、炭素含有率0.02%程度まで純鉄と称されている。
鉄を主成分として、一般に約2%以下の炭素と、その他の成分を含むもの。
鉄と炭素を主成分として、一般に約2%を超える炭素と、その他の成分を含むもの。
(出所:JIS G 0203)
ここでのポイントは、これらの鉄鋼材料が「炭素の含有率」によって分類されていることです。炭素の含有率は、純鉄、鋼、鋳鉄の順に高くなっていきます。鉄鋼材料において、炭素は重要な役割を果たしています。鉄は、炭素の含有率が高いほど硬くなり、強度を増す性質があるからです。古代の人はそのことに気付き、鉄に炭素を混ぜ合わせて強靭な材料を作り、農具や武器などを製作しました。それが今日の鉄鋼材料へと発展してきました。鉄鋼材料の本性は、まぎれもなく“鉄と炭素の合金”なのです。まずはそのことを前提として知っておく必要があります。
純鉄は、用途がかなり限られた鉄鋼材料となります。ほとんど炭素を含有していない純度の高い鉄であるため、軟らかく、構造用部材に使用されることはありません。しかし、他の鉄鋼材料と比べて磁気特性が優れていることから、ソレノイドや電磁リレーなどの電磁部品に使用されています。近年、純度が極めて高い高純度鉄の研究が盛んに行われています。東北大学では、不純物を極限まで減らし、99.9996%の純度を誇る「超高純度鉄(ABIKO-iron)」の開発に成功しています。超高純度鉄は腐食しづらく、高温でも強度が落ちないため、産業への利用が期待されています[参考文献2]。
鋼は、鉄鋼材料のエースともいえる材料です。材料としては「鋼材(こうざい)」という名称で呼ばれています。鋼はモノづくりでの利用頻度が高く、金属材料全体で見ても圧倒的な利用率を誇ります。その理由は、鋼の材料特性にあります。適度な強度に加え、延性(えんせい:引っ張ったときに伸びる性質)や靭性(じんせい:破壊に耐え得る粘り強さ)を持っています。加工もしやすいため、多くの機械部品や構造物の部材などに使用されています。材質のバリエーションも多く、食器などの家庭用途からロケットなどの宇宙/航空用途まで、幅広い用途に対応しています。
鋳鉄も鋼と並び、モノづくりに欠かせない鉄鋼材料の1つです。鋳鉄の「鋳」は鋳造の「鋳」であり、いわゆる「鋳物(いもの)」と呼ばれる鋳造製品に使われている鉄鋼材料です。鋳鉄は鉄鋼材料の中で最も炭素含有率が高く、非常に硬いという特徴があります。鋼のような延性や靭性はありませんが、圧縮方向の荷重に対して強さを発揮します。また耐摩耗性があり、振動吸収能にも優れています。そのため、剛性が求められる機械部品や工作機械のベッドなどに使用されています。
次のページからは、鉄鋼材料として利用頻度が高い「鋼」と「鋳鉄」の種類を説明します。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
素材/化学の記事ランキング
コーナーリンク