三菱重工が常識を覆すアンモニア分解システム開発、貴金属不要で450℃で反応材料技術(1/3 ページ)

水素キャリアとして有望視されるアンモニアだが、これまでの分解システムは700℃以上の高温と高価な貴金属触媒が必要だった。そんな業界の常識を覆すアンモニア分解システムを三菱重工が開発した。

» 2025年12月11日 08時00分 公開
[遠藤和宏MONOist]

 三菱重工業(以下、三菱重工)は2025年12月10日、東京都内で記者会見を開き独自のアンモニア分解システム「HyMACS(ハイマックス)」を用いて、蒸気を加熱源として利用し、原料のアンモニアを分解して、純度99%の水素を製造することに成功したと発表した。

 この取り組みとHyMACSの開発は長崎市深堀町にある同社総合研究所のパイロットプラントで行った。同社の調べによれば、蒸気加熱方式によるパイロットスケールでの水素製造は世界初となる。

「水素キャリア」としてアンモニアが注目されるワケ

 アンモニアは、常温常圧では気体だが、−33℃で液化するため液体で輸送しやすい。燃焼時にCO2が発生しない他、分解することで原料の水素も抽出できる。直接燃焼ガスタービンの活用や石炭ボイラーでの混焼などによりアンモニア自体を燃料として使える。さらに、輸送/貯蔵技術や運ぶためのインフラ(ケミカルタンカーなど)も存在することから、国際的に流通している。そのため、肥料やアクリル繊維の原料として国内外で市場も既にある。

アンモニアの利点 アンモニアの利点[クリックで拡大] 出所:三菱重工
三菱重工 GXセグメント 企画管理部 部長代理の鹿島秀一氏 三菱重工 GXセグメント 企画管理部 部長代理の鹿島秀一氏

 三菱重工 GXセグメント 企画管理部 部長代理の鹿島秀一氏は「アンモニアは、単位容積当たりの水素密度が液化水素よりも大きいという利点もある」と触れた。

 一方、水素は常温常圧において気体で、−253℃で液化するため液体での輸送が難しい。「水素は、体積エネルギー密度が極めて小さく、エネルギーとして利用するには液化あるいは圧縮(高圧)が必要だ。液化には−253℃にするためのエネルギーが必要となる。容器への自然入熱と水素の蒸気潜熱が非常に小さいため、液化水素のボイルオフ(気化)が避けられない。気体の水素は容器から漏えいしやすいだけでなく、爆発限界が極めて広く、最小着火エネルギーも小さいため、爆発しやすい」(鹿島氏)。

水素の輸送形態の比較 水素の輸送形態の比較[クリックで拡大] 出所:三菱重工

 加えて、水素は無色無臭のため漏えい箇所の特定や感知が難しいが、アンモニアは刺激臭があり、漏れた箇所を絞り込みしやすい。水素を供給するためのインフラも十分でないことから、国際市場が形成されていないという。

 これらを要因に、国内では水素を運ぶ手段「水素キャリア」としてアンモニアが注目されている。そこで、三菱重工はアンモニアから水素を抽出できるアンモニア分解システムとしてHyMACSの開発を進めている。

水素キャリアとしてのアンモニアの優位性 水素キャリアとしてのアンモニアの優位性[クリックで拡大] 出所:三菱重工
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