鋼は、成分の違いによって大きく「炭素鋼(たんそこう)」と「合金鋼(ごうきんこう)」に分類されます。JIS G 0203の「鉄鋼用語(製品および品質)」では、それぞれ次のように定義されています。
・炭素鋼
鉄と炭素の合金で炭素含有率が、通常0.02〜約2%の範囲の鋼。少量のケイ素、マンガン、リン、硫黄などを含むのが普通である。
・合金鋼
鋼の性質を改善向上させるため、又は所定の性質をもたせるために合金元素を1種又は2種以上含有させた鋼。
(出所:JIS G 0203)
炭素鋼と合金鋼の明確な違いは、“合金元素を含有しているかどうか”です。合金元素とは、添加することで金属の性質を改善または向上させる元素のことです。合金元素を含有していない普通の鋼のことを炭素鋼といい、合金元素を含有している鋼のことを合金鋼といいます。
ここで注意したいことは、鋼には炭素以外にケイ素(Si)、マンガン(Mn)、リン(P)、硫黄(S)が含まれていることです。炭素を含めたこれらの元素は「鋼の主要5元素」と呼ばれており、鋼の基本成分となっています。ケイ素は鉄の硬さと強さを向上させている元素であり、鋼では0.2〜0.4%程度を含むのが普通です。マンガンは鉄の靭性を向上させている元素であり、鋼では0.6〜1.5%程度を含むのが普通です。逆にリンと硫黄は、鉄をもろくする作用があります。そのため有害な不純物元素として扱われており、含有率は通常0.05%程度以下に抑えられています。そしてこれらの元素は、一定量以上添加されない限りは合金元素として扱いません。
炭素鋼は、炭素含有率によって「低炭素鋼」「中炭素鋼」「高炭素鋼」に分類されます。炭素含有率の目安は、低炭素鋼が0.02〜0.25%、中炭素鋼が0.25〜0.6%、高炭素鋼が0.6〜2.1%です。最も炭素含有率が低い低炭素鋼は軟らかく、加工しやすい材料です。大きな強度を必要とする場所には適していませんが、汎用的な用途で使用したいときに適しています。
中炭素鋼は、炭素鋼の中では中間の硬さと強度があります。また、「焼入れ(やきいれ)/焼戻し(やきもどし)」と呼ばれる熱処理を施すと、強度と靭性が増すというメリットがあります。そのため、強度や靭性が求められる機械部品の用途に適しています。最も炭素含有率が高い高炭素鋼は、焼入れを施すと非常に硬くなる材料です。それに加えて耐摩耗性(摩耗しにくい性質)があるため、工具や金型などの用途に適しています。
JISに規定されている鋼材の中では、SS400が代表的な炭素鋼として知られています。SS400は「一般構造用圧延鋼材」の一種で、「普通鋼(ふつうこう)」とも呼ばれています。低炭素系の組成であるため加工しやすく、昔からさまざまな構造用部材に使用されています。400は、引張強さが400N/mm2あることを表しています。S45Cもよく知られた炭素鋼です。S45Cは「機械構造用炭素鋼」の一種であり、焼入れ/焼戻しによって高い強度と靭性が得られるため、ボルトやナットなどの機械部品に使用されています。45Cは、炭素を0.45%程度含有することを表しています。高炭素系のものでは、SK105が知られています。SK105は「炭素工具鋼」の一種で、炭素の含有率が1%程度あり、硬さと耐摩耗性に優れています。ドリルや刃物などの小型の工具に使用されています。
まず合金鋼は、炭素鋼では不足してしまう性質を補ってくれる材料と思ってください。例えばS45Cクラスの炭素鋼は、肉厚が大きい場合、焼入れを施しても内部まで十分に硬化しないことが起こります。そこで鋼中にクロム(Cr)やモリブデン(Mo)などを混ぜると、焼入れ性が増して内部まで十分に硬化させることができます。クロムは鋼の耐熱性や耐食性を向上させる効果もあるため、合金鋼ではよく使用されています。その他の合金元素としては、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、バナジウム(V)などもよく使用されています。
合金鋼は、合金元素の含有率によって「低合金鋼」「中合金鋼」「高合金鋼」に分類されます。それぞれ合金元素の含有率の目安は、5%以下、5〜10%、10%以上です。高合金なものほど鋼の特性が改善向上する傾向がありますが、その分コストも上がります。合金鋼はよく、含有している合金元素名を使って呼称します。例えば「CrMo鋼」と言うと、クロムとモリブデンを含有した合金鋼であることを表します。「13Cr鋼」と言うと、13%のクロムを含有した合金鋼であることを表します。
JISに規定されている合金鋼としては、SCM440がよく知られています。SCM440は「機械構造用合金鋼」の一種であり、クロムを1%程度、モリブデンを0.2%程度含有しています。「クロモリ鋼」の愛称でも親しまれている合金鋼です。強靭な材料特性があり、シャフトや歯車などの動力伝達系機械部品に使用されています。工具に使用される合金鋼としては、SKD11に代表される「合金工具鋼」が知られています。SKD11は炭素を1.5%程度、クロムを12%程度含有する高硬度の合金鋼です。耐摩耗性が求められる冷間金型に使用されています。合金鋼はその他に「ばね鋼」「軸受鋼」「ステンレス鋼」「耐熱鋼」など多くの種類があり、いずれも独自の優れた材料特性をもっています。これらの合金鋼は特殊な用途に使用されることから、「特殊鋼」と呼ばれています。
「炭素鋼」と「合金鋼」は、鋼を成分によって分類したときの鋼の種類でした。鋼を製法によって分類すると、「鍛鋼(たんこう)」と「鋳鋼(ちゅうこう)」と呼ばれる種類の鋼が存在します。これらの鋼は、利用の仕方によっては最終製品の耐久性向上、コスト低減などにつながるため、知識として知っておくと役立つはずです。
一般的に鋼は、「圧延(あつえん)」と呼ばれる方法で製造されています。圧延とは、ロールで材料に圧力をかけ、うどんの生地のように薄く延ばし、板や棒などの形状に成形する加工法のことです。この方法で作られた鋼は、「圧延鋼材」と呼ばれます。これに対して「鍛鋼」は、鋼に鍛造(たんぞう)が施されています。圧延では材料に圧力をかける方向は一方向ですが、鍛造では多方向から材料に圧力をかけています。これによって鋼が「鍛錬(たんれん)」され、強靭な特性をもつ材料となります。そのため、重要度の高い鋼構造部材や、高い品質が求められる圧力容器などは、鍛鋼が使用されています。JISでは、「SF材」として各種鍛鋼品が規定されています。
一方の鋳鋼は、圧延も鍛造も施されていない「鋳造まま」の鋼です。圧延鋼材や鍛鋼と比べて機械的性質が劣りますが、複雑形状の製品を一体で成形できる、安価に作れるなどのメリットがあります。JISでは、「SC材」として各種鋳鋼品が規定されています。鋼を使用する場合は材質だけでなく、品質やコストを考慮し、製法の違いにも注目することが大事です。
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