鋳鉄は、鋼と同じように炭素、ケイ素、マンガンを基本成分として含有しています。それぞれの含有率は、炭素が3〜4%程度、ケイ素が1〜3%程度、マンガンが0.3〜1%程度です。その他に微量のリンと硫黄も含有しています。鋳鉄は炭素含有率の高い鉄鋼材料ですが、鋳鉄中で炭素は主に黒鉛(グラファイト)として存在します。黒鉛は鋳鉄の組成や製造方法によって形態が変わり、これが鋳鉄の材料特性に深く関与しています。鋳鉄は、黒鉛の形態によって大きく「ねずみ鋳鉄」「白鋳鉄(はくちゅうてつ)」「まだら鋳鉄」に分類されます。
ねずみ鋳鉄(別名:片状黒鉛鋳鉄)は最も一般的な鋳鉄であり、鋳造製品に広く利用されています。鋳鉄内では炭素が片状の黒鉛として分布しています。破面がねずみ色をしているため、ねずみ鋳鉄と呼ばれています。ねずみ鋳鉄の材料特性としては、圧縮強さが引張強さの2.5〜4倍程度あります。熱伝導性が高い点もねずみ鋳鉄の特徴です。JISでは、ねずみ鋳鉄は「FC材」として規定されています。引張強さが250N/mm2未満のものは「普通鋳鉄」、250N/mm2以上のものは「強靭鋳鉄」と呼ばれています。また、合金元素を含有して性質が改善されたものは「合金鋳鉄」と呼ばれています。
白鋳鉄は、炭素がセメンタイトと呼ばれる炭化物(Fe3C)となって分布している鋳鉄です。破面が白色のため、白鋳鉄と呼ばれています。材料の性質としては、硬くてもろいです。切削加工が困難なため、用途がかなり限られています。ただし、合金元素を添加して多合金系にしたものは耐摩耗性と耐熱性が良好であるため、鉄鋼圧延用ロールに使用されています。
まだら鋳鉄は、ねずみ鋳鉄と白鋳鉄の両方が混ざり合った性質を持つ鋳鉄です。鋳鉄内は黒鉛とセメンタイトが混在して分布しており、破面もねずみ鋳鉄と白鋳鉄のそれぞれの破面を呈しています。まだら鋳鉄はもろく、切削性が悪いため、あまり使用されません。
以上が基本の鋳鉄となりますが、これらの鋳鉄は時代ごとに改良がなされてきました。そして新しい鋳鉄として誕生し、実用化もされています。その中から代表的なものを以下に紹介します。
球状黒鉛鋳鉄(別名:ダクタイル鋳鉄)は、鋳鉄内で黒鉛が球状に分布している鋳鉄です。もし鋳鉄内に黒鉛が尖(とが)った部分があると、材料に負荷が生じたときに尖った部分に応力集中し、亀裂が発生しやすくなります。球状黒鉛鋳鉄は黒鉛が球状に分布しているため、材料負荷時に応力集中が緩和されます。そのため、球状黒鉛鋳鉄の引張強さはねずみ鋳鉄の約2〜3倍あります。さらに延性もあり、引っぱったときに高い伸びを示します。ただし、熱伝導性はねずみ鋳鉄に比べて劣ります。球状黒鉛鋳鉄はJISで「FCD材」として規定されており、自動車の足回り部品や鋳鉄管などに使用されています。
CV黒鉛鋳鉄は、鋳鉄中の黒鉛が芋虫状に分布している鋳鉄です。性質は、ねずみ鋳鉄と球状黒鉛鋳鉄の中間の性質を持ちます。つまり、球状黒鉛鋳鉄に近い強度がありながら、ねずみ鋳鉄に近い熱伝導性を兼ね備えています。そのため、CV鋳鉄は高温強度部材に使用されています。JISでは「FCV材」として規定されています。
可鍛(かたん)鋳鉄は、白鋳鉄を熱処理することによって鉄基地中に塊状黒鉛を分布させた鋳鉄です。可鍛には曲げられるという意味があり、曲げられるくらい強靭な材料であることからその名が付いています。可鍛鋳鉄は、熱処理方法の違いにより「白心可鍛鋳鉄」「黒心可鍛鋳鉄」「パーライト可鍛鋳鉄」があります。
白心可鍛鋳鉄は、表面に存在する炭素を熱処理で除去(脱炭(だったん))して得られる可鍛鋳鉄です。鋳造時の流動性が良好であるため、薄肉品や複雑形状品の鋳造が可能です。そのため、高い強度が求められる自動車部品や管継手などに使用されています。
黒心可鍛鋳鉄は、白鋳鉄のセメンタイトを熱処理によってフェライト(純鉄の相)と黒鉛に分解させた可鍛鋳鉄です。耐食性が優れているため、耐食性が求められる地中埋設用ボルトや排水管継手などに使用されています。
パーライト可鍛鋳鉄は、熱処理によってパーライト(フェライトとセメンタイトが交互に折り重なって結晶化した相のこと)化させた可鍛鋳鉄です。じん性が良好な鋳鉄です。産業における使用頻度は、あまり高くありません。
以上、鉄鋼材料の種類と成分について説明しました。鋼と鋳鉄の違いや、それらの材料特性についてご理解いただけたなら幸いです。次回は、鉄鋼材料の製造方法について説明します。
ひろ/ものづくりの解説書
鉄鋼品メーカーに勤務するものづくりエンジニア。入社以来、大型鉄鋼品の技術開発、品質保証、生産管理等の業務に携わってきた。自身が運営するWebサイト「ものづくりの解説書」では、ものづくり業界の魅力を発信する記事や技術解説記事などを公開している。
[1]ミニファイル:原材料の規格と分析法、ぶんせき、第11号、p.569-570、2007年
[2]安彦兼次、解説:超高純度金属の実用化への道、まてりあ、第52巻、第6号、p.259-265、2013年
[3]JIS G 0203:2009「鉄鋼用語(製品及び品質)」
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