電気自動車(EV)をはじめとする電動車の普及に伴い、リチウムイオン電池で使用するレアメタルの不足が国内で課題となっている。その解決策となる技術が実用化に向け大きく前進した。
東レは2025年12月8日、使用済み車載用リチウムイオン電池のリチウムを、高純度/高収率で回収可能な高耐久/高選択ナノろ過(NF)膜エレメントを実用サイズにスケールアップする技術を確立したと発表した。
国内では脱炭素社会の実現に向けて、電気自動車(EV)をはじめとする電動車の普及/拡大が進む中、その中核を担うリチウムイオン電池の安定供給に向けたレアメタル資源の確保が求められている。特に使用済みリチウムイオン電池のリサイクルによるリチウム資源の循環技術の確立が必要とされている。
これまで使用済み電池のリサイクルでは、高価なニッケルやコバルトの回収が中心であり、リチウムの多くが廃棄されていた。しかし、近年はニッケルやコバルトを含まないリン酸鉄リチウム(LFP)系電池の急速な普及に伴い、リチウム単体の回収ニーズが高まっている。
一方、東レのNF膜は、これまで塩湖からのリチウム分離回収に活用されてきたが、使用済みリチウムイオン電池からの回収では、使用済み電池から金属成分を抽出した強酸性の硫酸浸出液をろ過する必要があり、従来の膜では強酸耐久性に課題があった。
そこで東レは、使用済みリチウムイオン電池を加熱処理して得られたブラックマスの硫酸浸出液に対し、耐酸性を向上させた高耐久/高選択NF膜を用いてろ過処理を行うことで、リチウムを選択的に分離/回収する分離膜技術の提案と複数の実証を研究ラボスケールで進めた。その結果、同技術で95%以上の収率で、リチウムを回収できることを確認できた。
今回の技術は、ニッケル/コバルト系電池に加え、LFP系電池を含む幅広いタイプのリチウムイオン電池から、効率的かつ高品質にリチウムを回収できるようになる。さらに、リチウム回収の効率化による資源循環への貢献が期待される。
加えて、東レは、環境省の委託業務を通じて、有機合成化学、高分子化学、ナノテクノロジーの知見を融合させた高耐久/高選択NF膜エレメントの広幅化によるスケールアップにめどを付けた。
このスケールアップにより、従来の水処理用途向けに展開しているエレメントと同サイズでのモジュール量産が可能となった。
これにより、実用スケールでのリサイクルプロセスへの適用や顧客へのサンプル提供が行えるようになる。現在は、国内外への展開を視野に入れ、供給体制の整備を進めている。
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