ステンレス鋼の基礎知識鉄鋼材料の基礎知識(13)(1/3 ページ)

今なお工業材料の中心的な存在であり、幅広い用途で利用されている「鉄鋼材料」について一から解説する本連載。第13回は、ステンレス鋼について説明する。

» 2026年08月27日 07時00分 公開
[ひろMONOist]

 現代のあらゆる機器に「特殊鋼」が使用されており、機器の高出力化や耐久性向上をサポートしています。特殊鋼は普通の鋼(はがね)をしのぐ材料特性を持つハイテクな材料であり、連載第11回ではその全体像を説明しました。連載第12回では主要な特殊鋼として「工具鋼」について説明しましたが、今回は「ステンレス鋼」について説明します。

 ステンレス鋼は一言で言うと、「さびにくい鋼」です。一般的に鋼はさびやすいことで知られていますが、ステンレス鋼はさびが発生しづらく、それでいて十分な強度があります。その機能性の高さから幅広い機器や製品に使用されており、モノづくりの現場でも使用頻度の高い材料です。

 ステンレス鋼は機械構造用鋼や工具鋼などと同様、多くの種類があります。鋼種によってさびにくさや強度などが異なるため、ユーザーは用途やコストに応じ、適切なステンレス鋼を選定する必要があります。そもそもステンレス鋼がなぜさびにくいのか、どのような用途があるのか、どのような種類があるのかなどを丁寧に説明します。

ステンレス鋼とは

 日本産業規格(JIS)によると、ステンレス鋼は「クロム含有率を10.5%以上、炭素含有率を1.2%以下とし、耐食性(たいしょくせい)を向上させた合金鋼」と定義されています。炭素含有率が1.2%以下となっていますが、実用的には0.15%以下のものが多く、「低炭素量かつ高クロム量の合金鋼」となっています。

 ステンレス鋼の最大の特徴は「耐食性が高い」ことです。耐食性とは「腐食しづらい性質」のことですが、通常の鋼(炭素鋼など)は容易に腐食を起こしてしまいます。腐食は金属が電気化学反応的に溶けて失われる現象であり、いわゆる「さび」は腐食によって生じる副産物のことを指します。

 鋼が腐食を起こすと見た目が悪くなるだけでなく、減肉を生じ、最悪の場合は破壊に至ります。国内における腐食による経済損失は年間数兆円に達するといわれており、非常に大きな損失となっています。鋼構造物が腐食して破壊すると、その付近に人がいれば重大な事故につながる恐れがあるため、腐食は決して甘く見てはいけない現象です。

 そこで機械や構造物などを製作する場合は、腐食対策を講じることが重要となります。ステンレス鋼には高い耐食性が備わっているため、腐食のリスクがある場所で使用するのに適した材料となります。製作物に腐食対策を講じたいとき、まず第一候補の材料と捉えて大丈夫です。

図1 ステンレス鋼とは 図1 ステンレス鋼とは[クリックで拡大]

 ステンレス鋼に対する理解を深めていただくため、そもそも鋼の腐食がなぜ起こるのかを次に説明します。

鋼の腐食メカニズム

 鋼の腐食は、鋼と環境の界面において電子とイオンの移動が生じることで起こります。図2に示すように、鋼の表面に水(H2O)があると電位差が生じ、鉄(Fe)が電子を放出してイオン化します。イオン化した鉄(Fe2+)は、水の中に溶け出します。この反応を「アノード反応」と言います。

 鉄が放出した電子は水と、そこに溶け込んでいる酸素(O2)が受け取ります。そして水酸化物イオン(2OH-)を形成します。この反応を「カソード反応」と言います。水酸化物イオンは鉄イオンと結合し、水酸化鉄(さび:Fe(OH)2)を形成してそこにとどまります。これが腐食のメカニズムです。

図2 鋼の腐食メカニズム 図2 鋼の腐食メカニズム[クリックで拡大]

ステンレス鋼がさびない理由

 では、ステンレス鋼がなぜ高い耐食性を持つのか。それは「不動態皮膜(ふどうたいひまく)」と呼ばれる薄い保護皮膜を表面に形成しているからです。不動態皮膜はクロムの水和/酸化物層であり、厚さ数nm(ナノメートル)の非常に薄い皮膜です。これが鋼中の鉄と環境中の水が反応して腐食するのを防止します。

 不動態皮膜は、鋼中にクロムが添加されているときに形成されます。10.5%以上添加されているときに優れた耐食性を発揮するため、ステンレス鋼は「クロム含有率が10.5%以上」と定義されています。不動態皮膜は破壊されても、瞬時に不動態皮膜を形成して自己修復する機能をもっています。そのため、ステンレス鋼は長期に渡り高い耐食性を維持します。

図3 不動態皮膜の概略図 図3 不動態皮膜の概略図[クリックで拡大]

ステンレス鋼の用途

 現在、ステンレス鋼はさまざまな用途に利用されています。家庭用品、自動車部品、電気機器、医療機器、建材、化学プラント、エネルギープラントなど、数え出すときりがありません。それらの多くは水や酸などによる腐食を防止する目的で使用されますが、ステンレス鋼は光沢の輝きを放つため、意匠性を目的として使用されることもあります。

 ステンレス鋼が使用されている製品の中でもっとも身近な例を挙げると、スプーン、ナイフ、鍋、フライパンなどの調理/食卓器具が挙げられます。洗濯機、電気ポット、炊飯器などの家電にも使用されています。調理場のシンクはステンレス鋼製品の代表格といえる製品であり、水と触れる場所にはステンレス鋼が欠かせません。

 自動車部品で見ると、エキゾーストマニホールド、マフラーなどの排気管にステンレス鋼が使用されています。排気管はエンジン室のガソリン燃焼に伴い高温の酸化性ガスが流れるため、耐熱性を持つステンレス鋼が使用されています。意匠性や耐候性を良くするため、外装や装備部品にも使用されています。

 化学プラントでは、反応装置や貯蔵タンクなどの機器が石油や薬品などに晒(さら)されるため、高い耐食性を持つステンレス鋼が使用されています。また発電プラントでは、高温/高圧の水蒸気が流れるボイラーや配管などにおいて、高温強度の高いステンレス鋼が使用されています。

 近年は、水素社会の構築に向けて水素ステーションの設置が進められていますが、高圧水素用バルブや配管などにもステンレス鋼が使用されています。通常の鋼は水素が侵入すると水素脆化(ぜいか)を起こすことが知られていますが、一部のステンレス鋼は耐水素脆化特性が認められているためです。

図4 ステンレス鋼が使用されている製品の例 図4 ステンレス鋼が使用されている製品の例[クリックで拡大]
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