ステンレス鋼は発明されてから100年余りしか経(た)ちませんが、その間さまざまな改良がなされ、多くの種類のステンレス鋼が誕生しました。より耐食性を向上させたもの、耐食性に加えて強度を向上させたもの、耐熱性を向上させたものなどがあり、機能性が充実しています。
現在、JISには約110種のステンレス鋼が規格化されています。「SUS304」のように、ステンレス鋼は材料記号に「SUS」が付きます。「Steel Use Stainless」の頭文字を取ったものです。
ステンレス鋼は組織の違いにより、大きく次の5つに分類されます。
以下に各ステンレス鋼の特徴を説明します。
マルテンサイト系ステンレス鋼は、鋼の硬質組織であるマルテンサイトを組織としたステンレス鋼です。他のステンレス鋼と比べて炭素含有率が高いため、焼き入れによって硬化させることが可能であり、高強度ステンレス鋼として扱われています。クロムを約13%含有する「SUS403」や「SUS410」が代表的なマルテンサイト系ステンレス鋼として知られています。
本鋼種は強度が高い反面、耐食性については他のステンレス鋼と比べて劣ります。汎用成分系では、大気中では腐食しづらいものの、溶液中では腐食に注意が必要です。価格としては安価な部類に入るため、コストと強度を重視したい場合に向いています。用途としては刃物や工具、機械構造部材などが挙げられます。使用時は焼き入れ/焼き戻しを施し、靭性を調整してから使用します。
フェライト系ステンレス鋼は、常温でフェライト単相の組織を持つステンレス鋼です。炭素含有率が低めであり、マルテンサイト系ステンレス鋼よりも優れた耐食性を示します。ただし焼き入れしても硬化しないため、比較的低強度のステンレス鋼となります。クロムを約17%含有する「SUS430」が代表的なフェライト系ステンレス鋼として知られています。
本鋼種は熱膨張率が低く、なおかつ熱伝導率が高いという特徴があります。また「応力腐食割れ」と呼ばれる、応力発生下で突然の割れを伴う形態の腐食を起こしにくいという特徴もあります。そのため、温度の変動が大きい自動車の排気管などによく用いられます。使用時は焼きなましを施してから使用します。
オーステナイト系ステンレス鋼は、常温でオーステナイト単相の組織を持つステンレス鋼です。通常の鋼は727℃以上の高温域でのみオーステナイト組織を示しますが、本鋼種はニッケル(Ni)が多量に添加されているために、常温でもオーステナイト組織を示します。そのため、鋼なのに磁性を持ちません。
本鋼種は良好な耐食性と機械的性質を示すため、ステンレス鋼の中でもっとも広く利用されています。JISにおいても、もっとも多くの品種が規定されています。
オーステナイト系ステンレス鋼の代表的な品種としては、クロムを約19%、ニッケルを約9%含有する「SUS304」や、クロムを約17%、ニッケルを約12%、モリブデンを約2.5%含有する「SUS316」が挙げられます。モリブデンは耐食性を向上させる効果があるため、SUS316は酸に対して優れた耐食性を示します。これらの用途としては自動車部品、船舶部品、食品プラント、化学プラント、エネルギープラントなどが挙げられます。
本鋼種は、「固溶化熱処理」と呼ばれる熱処理の施工が必要となります。固溶化熱処理は、耐食性に有害な炭化物や析出物などを母相に固溶させ、耐食性と機械的性質を向上させることを目的とした熱処理法です。SUS304やSUS316では、1050℃程度に加熱後保持し、急冷(主に水冷)します。
本鋼種は耐食性と機械的性質のバランスに優れた優秀なステンレス鋼であるものの、応力腐食割れを起こしやすい点に注意が必要です。また「加工誘起マルテンサイト変態」を起こしやすく、冷間で塑性変形を与えるとマルテンサイトに相変態し、延性及び耐食性が低下してしまいます。
オーステナイト・フェライト系ステンレス鋼は、オーステナイト相とフェライト相がおよそ1:1で混在した組織を持つステンレス鋼です。図8に示すように、フェライト相中にオーステナイト相がアイランド状に分散しています。そのため、この鋼種は「二相系ステンレス鋼」とも呼ばれています。以降、本記事内でも二相系ステンレス鋼と呼ぶことにします。
二相系ステンレス鋼の特徴は機械的性質に優れることと、「耐孔食性(たいこうしょくせい)」に優れることです。耐孔食性とは、「孔食(こうしょく)」や「すき間腐食」などの局部腐食に耐えられる性質のことです。この形態の腐食は、塩化物や臭化物などの「ハロゲンイオン」が周囲に存在するときに生じ、特に海水に晒(さら)される環境で問題となります。
耐孔食性は「孔食指数(PRE=Cr(%)+3.3×Mo(%)+16×N(%))」により、クロム、モリブデン、窒素の含有率から評価することができます。二相系ステンレス鋼の孔食指数は高く、耐孔食性に優れることから、海洋構造物や油井管などへの用途があります。この鋼種の欠点としては、合金元素の添加量が多いことから非常に高価な点です。
JISでは6品種の二相系ステンレス鋼が規定されており、「SUS329J3L」と「SUS329J4L」が代表的な二相系ステンレス鋼として知られています。JISには規定されていませんが、より優れた耐食性を持つ「スーパー二相系ステンレス鋼」や、低コストでオーステナイト系ステンレス鋼と同等の耐食性を持つ「リーン二相系ステンレス鋼」、高強度/高耐食性を有する「ハイパー二相系ステンレス鋼」も存在します。
析出硬化系ステンレス鋼は、母相に微細な炭化物や金属間化合物などの第二相を析出させて強度を高めたステンレス鋼です。優れた耐食性を持ちながら、1000〜1300MPa程度の高い引張強さを示します。
本鋼種には析出硬化元素が添加されており、この元素が微細で硬質な第二相となって分散して母相中に析出しています。そのさい熱処理が重要であり、固溶化熱処理を行って合金元素を母相に固溶させた後、「析出硬化処理(時効処理)」を行うことで硬質な第二相が分散して析出します。
JISでは2品種の析出硬化系ステンレス鋼が規定されています。「SUS630」はニッケル(Ni)と銅(Cu)が約4%ずつ添加されており、時効処理によって母相に微細な銅リッチ相を析出させています。「SUS631」はニッケルが約7%、アルミニウム(Al)が約1%添加されており、時効処理によってニッケルとアルミニウムの金属間化合物を析出させています。これらの高強度ステンレス鋼は、機械構造物や航空機の部品などに使用されています。
以上、ステンレス鋼について説明しました。ステンレス鋼がさびない理由や、ステンレス鋼の種類などについてご理解いただけたなら幸いです。次回も主要な特殊鋼である「耐熱鋼」について説明します。
ひろ/モノづくりの解説書
鉄鋼品メーカーに勤務するモノづくりエンジニア。入社以来、大型鉄鋼品の技術開発、品質保証、生産管理等の業務に携わってきた。自身が運営するWebサイト「モノづくりの解説書」では、モノづくり業界の魅力を発信する記事や技術解説記事などを公開している。
[1]技術レポート「二相ステンレス鋼とその溶接材料について」、石田雅俊、ぼうだより|技術がいど、Vol.489、2016年
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