京都大学は、マイクロ流体気道チップとヒトiPS細胞を組み合わせ、生体内に近い形で細胞間の線毛協調運動を再現して機能評価する技術を開発した。線毛機能不全症候群についても、生体内に近い形でのモデル開発に成功した。
京都大学は2021年7月9日、マイクロ流体気道チップとヒトiPS細胞を組み合わせ、生体内に近い形で細胞間の線毛協調運動を再現して機能評価する技術を開発したと発表した。また、線毛運動に関連する遺伝子変異が原因の線毛機能不全症候群について、生体内に近い形でのモデル開発に成功した。帝京大学、大阪大学、三重大学、富山大学との共同研究による成果となる。
気道の上皮細胞には多数の線毛が存在しており、協調的に振動して気道に侵入した病原体や異物を除去する。研究チームは今回、マイクロ流体気道チップ上で一定の液流負荷をかけながら、iPS細胞を気道上皮細胞に分化誘導した。
その結果、線毛上皮細胞同士の線毛振動は、液流方向に合わせて方向がそろい、液流が一定方向に保たれることが確認された。
また、気道上皮細胞の分化過程で、空気と接しない培地につかった状態で液流負荷をかけると、負荷をかけない場合よりも線毛上皮細胞が多く分化誘導されていた。空気と接していなくても分化が促進されることから、胎児期に羊水で満たされた状態で行う呼吸様運動で生じた気管内の液流が、線毛上皮細胞への分化促進に役立っている可能性が示唆される。
次に、線毛機能不全症候群の原因遺伝子変異を持つさまざまなiPS細胞を用いて、気道上皮細胞を分化誘導したところ、これまで報告されている線毛運動の異常を培養皿内で再現できた。その遺伝子を修復すると、線毛の異常は正常に戻った。
液流負荷をかけながら線毛機能不全症候群患者由来のiPS細胞を気道上皮細胞に分化誘導すると、液流と同じ方向に細胞の向きがそろった。線毛の協調には線毛振動が必要といわれるが、線毛運動がなくても細胞同士が協調する可能性が示唆された。
線毛機能不全症候群は、線毛上皮細胞の機能不全により生じる遺伝子疾患で、原因遺伝子は40種以上もあり、遺伝子変異の種類によって異常パターンが異なる。今回の研究成果は、これまで原因遺伝子が不明だった線毛機能不全症候群の正確な診断や病態の詳細解析、新しい治療法の開発につながる可能性がある。
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