東京大学は、マウス脳で神経細胞の老化に伴う遺伝子とエピゲノムの変化を解析し、老化した神経細胞では発達期や刺激応答に関わる遺伝子が活性化しやすくなることを突き止めた。
東京大学は2025年10月2日、マウスの脳を用いて、老化の影響を受けやすい脳の海馬領域をシングルセルマルチオーム解析で分析することに成功したと発表した。高齢のニューロン(神経細胞)では、脳発達や応答性に関わる遺伝子が過剰に働きやすい状態になっていることが明らかになった。
研究では、若齢マウスと高齢マウスの海馬を対象に分析を行った。1つの細胞から遺伝子発現とエピゲノム状態(遺伝子の働きやすさ)を同時計測する、シングルセルマルチオーム解析を活用して、多様な細胞集団を同定して老化による影響を評価した。
その結果、脳内で情報伝達を担うニューロンでは、遺伝子の発現量よりもエピゲノムが大きく変化していた。エピゲノムは遺伝子の働きを後天的にオン、オフする仕組みで、本来は脳の発達期や刺激応答時に働く遺伝子が、老化により過剰に働きやすい状態になっていた。これは老化とともに、神経細胞が外部刺激に反応しやすくなる要因と考えられ、適切な神経回路の維持を妨げる可能性を示唆する。
また、老化ニューロンで活性化している遺伝子の周辺には、Bach2というタンパク質の結合配列が多く存在していた。Bach2は転写因子AP-1と拮抗し、遺伝子発現を抑える働きを持つ。若齢のニューロンではBach2量が多いが、加齢により減少することが確認された。この変化が、遺伝子の過剰活性化を引き起こす一因と考えられる。
研究チームは、老化した神経細胞が「落ち着きを失い」、刺激に過敏な状態になることが、神経回路の維持や認知機能低下に関わる可能性を指摘した。今回の成果が、加齢性神経疾患の発症メカニズムの理解と治療法開発につながることを期待している。
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