量子科学技術研究開発機構は、レーザーで生成した高速イオンを、がん治療装置用に制御する技術を実証した。位相回転空胴を導入し、目的の速度のイオン個数を最大10倍ほど増やすことに成功した。
量子科学技術研究開発機構(QST)は2025年9月27日、レーザーで生成した高速イオンを、がん治療装置用に制御する技術を実証したと発表した。位相回転空胴を導入し、目的の速度のイオン個数を最大10倍ほど増やすことに成功した。九州大学らとの共同研究による成果だ。
QSTでは、重粒子線がん治療装置の加速器を小型のレーザー加速装置に置き換える「量子メスプロジェクト」を推進している。同装置は、一般的にイオン入射装置とシンクロトロンの2つの加速器で構成されるが、これらの加速器に新技術を導入することで、装置の小型化と高度化を目指している。
今回の研究では、イオン入射装置をレーザー光によるイオン加速方式に置き換える技術を実証した。レーザー加速で生成したイオンの速度を目標値に整えるために、原型機に位相回転空胴を導入した。
実証実験では、レーザー加速で水素イオンを生成し、目標速度のイオン個数が最大10倍に増大することを確認。10Hz運転で量子メスに必要な総イオン数109個に到達する見込みを得た。
さらに、1ナノ秒(10億分の1秒)の時間に1cm2あたり1000万個のイオンが集中する様子をリアルタイムで観測した。従来の加速器よりも短時間で、100倍以上の高密度となることを示した。
今回は水素イオンを計測したが、今後はより重い炭素イオンの生成を進める。2年後をめどに、量子メスに搭載する炭素イオン入射装置の最終形デザインを決定する予定だ。
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